2020年7月6日月曜日

「スイマー」高田由紀子

書名:スイマー
著者名:高田由紀子
出版社:ポプラ社

好きな場所:「信司……チームに一秒をくれ」
信司の頬からゆるみが消えた。
「信司がもぎとってくれるのが、一番早い。きっと」
所在ページ:p163
ひとこと:六年生の向井航は、東京の有名スイミングクラブに所属して、学年別水泳競技大会で、メドレーリレーのアンカーに選ばれるほどのスイマーだった。でも競争の激しいチームの中で人間関係がうまくいかず、おまけに大会で大失敗をして、水泳をやめた。
 そして家族の転居にしたがって、佐渡にやってくる。佐渡には温水プールが一つしかなく、しかもそれは閉鎖の危機に瀕している。そのプールで泳いでいる三人に、航はいっしょに泳がないかとさそわれる。
 いやがっていた航だが、紆余曲折あって三人と泳ぎ始める。でも水泳は個人競技だ、タイムさえよければいいという思いは消えず「オレ様」と揶揄されるが……。

 都会っ子で「オレ様」の航が、引用のようにちょっとずつ仲間のことを気にかけるようになっていくようすが、ていねいに描かれています。仲間にはそれぞれ家庭の事情などがありますし、けんかもしますけれど、田舎の子のおおらかであたたかいのびやかさという長所が、航に作用していくようすがよくわかります。
 作者高田さんは、佐渡のご出身で、佐渡にまつわるお話をたくさん書かれていますが、高田さんのお人柄でもあるこののびやかさが、いつもお話にあふれていて、さわやかな安堵感を与えてくれます。
 田舎=すばらしい、仲間=必要という古びた短絡的な図式ではなく、リアルで、そして現代の子に納得できる形で、でもやっぱりすばらしくて、必要、を提示してくれる作品です。