2024年12月10日火曜日

『ふるさとはウクライナ』望月芳子(ナイデル)

書名:ふるさとはウクライナ
著者名:望月芳子
出版社:ナイデル



好きな場所:ところが10歳で初めて訪れた日本では、お客さんの反応が全然違ったのです。
所在ページ:p14
ひとこと:ウクライナ出身のカテリーナさんは、チェルノブイリで被災し避難を余儀なくされます。避難してきた子たちの音楽団に入団し、世界の国々で公演をしました。引用のように日本にも来て、日本で演奏活動をしたいと思います。音楽専門学校に進学し、バンドゥーラという琵琶のような弦楽器の奏者となります。そして日本にやってきて、働きながら、演奏活動を続けました。
 しかし、ウクライナで戦争がはじまり、家族や友人が大変な目にあっているところ、演奏などできないと思っていたカテリーナさん。ウクライナに住む友人に励まされて日本での演奏を始めます。

 編集者でもありフリーライターでもあり、雑誌『児童文芸』で編集もされている望月さんは、この本をお書きになるにあたって、カテリーナさんに直に取材されて書かれたということです。この本は、第10回児童ペン賞ノンフィクション賞を受賞されました。

2024年12月7日土曜日

『月曜倶楽部へようこそ!』森埜こみち(講談社)

書名:月曜倶楽部へようこそ
著者名:森埜こみち
出版社:講談社


好きな場所:梅柳過ぐらく惜しみ佐保の内に遊びしことを宮もとどろに
所在ページ:p6
ひとこと:六年男子、柊律は、ニ十分休みにサッカーをしていて一分だけ遅れた。教室に入ると、みんなの視線がこっちを向いた。恥ずかしい。
 そこに通路をはさんで隣から、引用のような詩音ちゃんのなぞの言葉が響いてくる。
 昔の人の詠んだ歌で、自分と同じように仕事をほっぽらして遊んだ人のことをうたったものらしい。
 
 知っているようで知らない日本の文化を学ぼう、というコンセプトの「おはなし日本文化」シリーズ。『わたしの空と五・七・五』という俳句のお話でデビューされた森埜さんにふさわしい「短歌・俳句」の巻です。
 短歌と俳句は実質的にどう違うか、俳句という用語を作ったのは正岡子規だったことなど、短歌と俳句の基礎が律の物語にそって、無理なく示されています。
 自由律や、季語のこともこれで納得。
 難しいと思う短歌、俳句のまっただなかにぽんと投げ入れられるようなそんなお話です。

2024年11月14日木曜日

『世界に挑む! デフアスリート 聴覚障害とスポーツ』森埜こみち(ぺりかん社)

書名:世界に挑む! デフアスリート 聴覚障害とスポーツ
著者名:森埜こみち
出版社:ぺりかん社


好きな場所:スタッフから、その人は聞こえないということを聞いていたので、講師は手に持っていたレジメをメガホンの形にして、その人の耳にあて、大きな声で話しかけたのです。
所在ページ:p37
ひとこと:『蝶の羽ばたき、その先へ』(小峰書店)で、突発性難聴になった子を主人公にお話をお書きになった森埜こみちさんのノンフィクションです。
 ぺりかん社の「なるにはBooks」という職業ガイドブックのシリーズの別巻で、デフアスリート(聴覚障害のあるアスリート)へのインタビューを中心に、聴覚障害のない「聴者」にもわかるような解説を加えたわかりやすい本です。

 私は、手話に日本語の語順のものと、手話としてもっと直感的にわかりやすい語順のものの二つがあって、その他に口の形を読み取る方法があるのは知っていました。
 でも、私が聞いていたのは、ろう学校では、昔は手話を教えていたけれど、手話禁止になって、人の口を読み取るやりかたをしているということだったのですが、この本を読むと、今はまた違って、むしろ積極的に手話を使っているみたいですね。ろう教育にも、歴史があるのだと知りました。
 引用のように、大きな声で話しかけたらそれでいいかというと、そうでない場合があるというのも知りませんでした。
 それから、デフアスリートのオリンピック「デフリンピック」というのがあって、1924年から開催されてきて、来年は日本で行われるということも知りませんでした。
 なんとなく、ろう者は聞こえないだけで、身体能力はいっしょなんだから、聴者といっしょの大会でもいいんだろう、ぐらいの感じでとらえていました。
 でもこの本を読むと、そうではなく、聞こえないことによる困難さがいろいろあって、それを配慮した大会運営の方法が必要なのだということも知りました。
 今まで活躍してきたデフアスリート、活躍中のデフアスリートへのインタビューが満載で、その人生を知って、応援したい気持ちになります。

 こうものが書けるのも、森埜こみちさんが、障害者教育のことをご存じで、またご自身も手話の勉強をしておられたからこそだと思います。
 いつも、中途半端に何かをやって、かえって傷つけては、とちゅうちょしていましたが、デフアスリートを巻末にあるような方法で応援してみたいと思いました。
 

2024年11月6日水曜日

『ゴール! おねしょにアシスト』井嶋敦子(国土社)

書名:ゴール! おねしょにアシスト
著者名:井嶋敦子
出版社:国土社


好きな場所:がまん尿、なんミリリットルでしたか?
所在ページ:p85
ひとこと:海斗は四年生。飯島ジュニアフットボールクラブに入っている。困っていることは、おねしょをすることだ。妹は一年生なのにおねしょをしない。朝からおねしょの始末をしておねしょの話をしているのでは、自信をもってシュートなどできないと思う。
 そんな海斗の家に、ママのサッカー仲間の息子、礼流が泊まることになる。おとうさんが勤め先を変えて、転校してくるのだ。
 礼流は、寝る前に薬を飲み、おねしょには治療法があると言うのだ。

 おねしょは、小さい時はいいですが、学校に入って、お泊りの校外学習や、クラブの合宿などがあるようになると、大問題になります。
 作者は秋田で小児科医をしておられる井嶋敦子さんです。おねしょには治療法がある、がまん尿という概念があるなどと、この物語で伝えておられます。
 子そだての時代、本当に困って、電話相談したりしたこともありますが、そのうちなおります、と言われただけだったような記憶があります。こんな風に、がまん尿だとか、薬だとか、夜中の尿量を測る方法があるなどとは、考えてみたこともありませんでした。おねしょされると、日々のことなので、親も子も本当に憂鬱になりますが、これを読んで、きっとそんな方法もあると親御さんも、ご本人も思えることがあるかなあと思います。
 たくさんの方に伝わりますように。
 
 

2024年11月3日日曜日

『銀樹』森埜こみち(アリス館)

書名:銀樹
著者名:森埜こみち
出版社:アリス館


好きな場所:里で暮らすより、山で暮らすほうが気楽でいい。だから、あんなところでひとりで暮らしておる。じゃがな、ここから眺める里はいいと思わんか? ここから眺めていると、なんとのう、人の暮らしが愛おしゅうなる。
所在ページ:p23
ひとこと:山で暮らす薬師のマボウ、そこに担ぎ込まれた少年シン。シンはマボウに鍛えられて薬師になっていきますが、銀樹という不思議な樹をめぐって、大変なことが……。

 第19回ちゅうでん児童文学賞大賞、第48回児童文芸新人賞、第17回日本児童文学者協会・長編児童文学新人賞、第44回日本児童文芸家協会賞など華々しい受賞歴のおありになる森埜こみちさんですが、なんとファンタジーのご出版は、これが初めてとのこと。
 私は森埜さんは、最初にお目にかかったのがファンタジー関連の場所だったので、ファンタジーの方って勝手に思っていましたので、ちょっと驚きました。
 長年あたためられたということで、細部まで描写のすばらしい、そして装丁の美しいご本です。
 
 

2024年11月2日土曜日

『パステルショートストーリー グレイ いつも会う人』新井けいこ(国土社)

書名:パステルショートストーリー グレイ いつも会う人
著者名:新井けいこ
出版社:国土社


好きな場所:確かめたところで、得るものはない。この先もまだまだ長く、塾に通わなければならないのだ。
所在ページ:p24
ひとこと:休み時間で完結するパステルショートストーリーのシリーズは、作家が色をテーマに一冊ずつ担当して、短編をつづるという企画です。私もパープル『キミョウな人(?)たち』という巻を上梓させていただいています。
 新井けいこさんのこの巻は「グレイ」。
  人間なのか 妖怪なのか
  事故だったのか わざとだったのか
  本当の姿はーーーー
 という巻頭言のように、いったい偶然なのか、何かの力が働いたのかわからないような「グレイ」ゾーンのお話です。

 このパステルショートストーリーは、今後も継続される予定がおありということで、とっても楽しみです。次はどんな色かな?

2024年10月13日日曜日

『るびぃ17 No.1』

書名:るびぃ17 No.1



好きな場所:
  吾の中のずるさよ蜥蜴の丸い目よ (ふくね)
所在ページ:p15
ひとこと:児童文学関係だと、お名前をだれでも知っていらっしゃるような作家さん、編集者さんが集まってやっていらっしゃる句会の第一句集です。
 引用のふくねさんは、赤羽じゅんこさんです。
 他にもすてきな句がたくさんありますが、出していいのかどうなのかわかりませんのでひかえておきます。
 いやあ、すごい方々です。
 コロナの中、オンラインシステムで句会を続けてこられたそうです。
 みなさまお忙しい中、すごいですね。
 ますますのご盛会をお祈り申し上げます。

『おおなわ跳びません』赤羽じゅんこ(静山社)

書名:おおなわ跳びません
著者名:赤羽じゅんこ
出版社:静山社


好きな場所:一生懸命やることが大事だとか、勝ち負けよりも、どれだけがんばったかがたいせつだ、とか。
 だったら、勝ったクラスに表彰状とかトロフィーとかをわたさなきゃいいのに。
所在ページ:p12
ひとこと:クラス対抗おおなわ大会が行われるので、クラスでは熱心に練習している。ところが、双葉は日常動作は普通にできるものの、足にちょっとしたハンディがあって、なかなかうまく跳べない。跳べないでひっかかっても止まることはないルールになっているが、時間内にちゃんと飛んで抜けられた人数で競うので、さっと抜けられない人がいると、記録が伸びない。
 双葉は、今まではハンディがあってもチャレンジするような子だったが、このおおなわ大会に際しては、跳びません、見学しますといいだした。
 いい成績でなくてもいいから、いっしょに跳ぼうと言い出した子がいて、双葉は跳びますと意見をひるがえしたが、次の日から学校に来なくなった。
 さて、どうする。

 本当にこれは、考えてもなかなか解決方法の浮かばない問題です。
 私もむちゃくちゃ体育ができなかったので、こういうときほんと私を除いて大会をやってください、と本気で思いました。補欠になったときは、むしろうれしかったです。がんばろう練習しようよといわれたときは、おねがいやめてと思いました。
 でも、心底、出ないでいいと思っていたかというと、そこは子どもですから、本当にそうだったのかというと、本音は違ったかもしれません。でも少なくとも、人に気を遣ってもらいたくなかった。そっちが勝っていた。
 
 赤羽さんは、この問題をクラスのいろいろな子の視点から、書き上げています。双葉のみならず、いっしょに跳ぼうと言った子、本当は自分も跳びたくない子、家の用事のほうが大事だからおおなわ大会なんて休めと親に言われている子、双葉に休めと言った子……。
 子どもたちは自分たちで、解決方法を考えていくことになります。
 そして大会の日……。

 むずかしいテーマで途中投げ出したくなったこともあるとおっしゃる赤羽さん。さすがの筆力で、今に必要な本当の多様性、思いやりをえがきだしていらっしゃいます。