2026年4月10日金曜日

『アンネは、なぜ死んだのか 十年間の旅の記録』土山優(新日本出版社)

書名:アンネは、なぜ死んだのか 十年間の旅の記録
著者名:土山優
出版社:新日本出版社



好きな場所:私が興味を持つのは、結果としてレジスタンスをすることになった、いわば普通の人だ。
所在ページ:p32
ひとこと:「十年間の旅の記録」と副題にあるように、これは何かを解説する本ではないように思います。ましてや、アンネがなぜ死んだのかを解き明かす本でもない。
 引用のように、アンネが隠れそして亡くなったあの時代に、ヒトラーに対して、違和感を抱き、そして「結果としてレジスタンスをすることになった」市井の人々の足跡をたどるために、何度も旅をした作者のエッセイであるように思いました。
 この足跡をたどるというのは、熱意というよりは、いわばこだわり、頭について離れないなにか、外来語でいえば「オブセッション」に近いもの。
 それを旅の順に書き下すことによって、最終的に、あの時代の市井の人々のやむをえない良心の発露を追い、どのようにナチスドイツがひどい政府であったかということを、虐殺そのものを描かずに描いている、そういう本のように思いました。
 ユダヤ人の側から、アウシュビッツでの生活や、その周辺でのできごとを書いたものはたくさんありますが、市井の人々の良心、というところに光をあてたものはむしろ少ないと思います。たぶん、見て見ないふりをしたことに対する非難や反省のほうが、きわだってしまうからだと思います。
 でも、もしこのような政府が私たちの上に君臨したとして、さあ、私たちはどうするのだろうと、考える時、この観点はとても大事だと思います。
 とりあげられている市井の人は、たとえば
 引き取られた女の子がユダヤ人であると知りながら密告しなかったオランダのある村の人たち。
 アンネ一家の隠れ家に物資を運んで相談にのっていたオーストリア人の女性。
 妊娠しているユダヤ人女性に身分証明書を渡したドイツ人夫妻。
 ヒトラーを暗殺しようとした家具職人。
 ビラを作成し、撒いたミュンヘン大学の学生兄妹。
 その学生の父と母と姉。
 そのビラをひろい添え書きをして、印刷して撒いた人。
 ビラに関する協力者180名。
 そのことを一切しゃべらずに斬首された学生。

 この時代のことは、私たちの世代であれば、いつかどこかで聞いたような感じがするかもしれませんが、作者は聞いたこと読んだことという「観念」にはせず、一つ一つに自分の足を運び、現場を自分の目で見ることによって、今に手繰り寄せようとしています。
 労作としかいいようがない、この本ですが、本当に10年もかかったということ。
 こういう良心を試されるような世の中にしてしまわないこと、そして、若い方々に語り継ぎ、こういうことがあったことを忘れないようにすること、とても大事だと考えさせられました。
 
 

2026年3月30日月曜日

『高橋秀雄詩集 かんじくん』高橋秀雄(四季の森社)

書名:高橋秀雄詩集 かんじくん
著者名:高橋秀雄
出版社:四季の森社



好きな場所:だけどな/さいごひとけり/風のふくまま/気のむくまま/それが/バッタいっぴき 生きる道
所在ページ:P73
ひとこと:『やぶ坂に吹く風』(小峰書店)で、第49回日本児童文学者協会賞受賞など、数多くの作品を出されてきた高橋秀雄さんの初の詩集です。
 題材の多くは、お作品と同じように日光の男体山のふもとに住む小学校四年生の男子(かんじくん)に仮託されたもの。でも引用のように、バッタになったものもあり、昔の高橋さんなんじゃないかというものもあり、人生の様々な時点で、人はいろいろな感覚を得るものなんだなあと思わされます。
 表紙のような小学生を描いた挿絵(徳升寛子)もすてきです。
 あくまでも絵本の勉強で詩を始められたという高橋さん。これからも詩をお書きになるのでしょうか。楽しみです。
 

『るるぶ 毎日5分でまなびの種まき 日本のれきしおはなし30』松尾恒一監修(JTB パブリッシング)

書名:るるぶ 毎日5分でまなびの種まき 日本のれきしおはなし30
著者名:松尾恒一監修
出版社:JTB パブリッシング


好きな場所:あるよ、にんじゃの おろちまるは てきの おしろに しのびこみました。
所在ページ:P145
ひとこと:前にご紹介した『都道府県のおはなし47』と同じるるぶの「毎日5分でまなびの種まき」シリーズです。
 今回は日本のれきしのお話。
 歴史の解説ではなく、その時代を舞台としたおはなしが30篇、そしてそれぞれの時代の解説がやさしくなされています。
 よみきかせなら3さいから、一人読みは低学年からの読みやすいお話ばかりです。

 引用は季巳明代さんの「おろちまる でかしたぞ」。武士や忍者が活躍した戦国から安土桃山ごろのお話です。
 おろちまるは忍者。敵の城に忍び込みます。お城の秘密が敵に流れているといううわさがあるので、その情報を探らなければなりません。さあ、おろちまるはどうやってしのびこみ、何を持ってくるのでしょうか?
 幼稚園保育園向けの月刊絵本で、忍者のお話の連載もしておられた季巳さん。
 さすがのわかりやすさで、難しい時代物をふんいきたっぷりに、そしておもしろく描いておられます。
 春休み、夏休みの観光で、史跡をめぐったりするご家族もおられるでしょう。そのお供にぴったりと思います。

2026年3月27日金曜日

『アクション! ふしぎな係活動!! ACTION2 もやもやざわつく係もある』サークル・拓編(岩崎書店)

書名:アクション! ふしぎな係活動!! ACTION2 もやもやざわつく係もある
著者名:サークル・拓編
出版社:岩崎書店


好きな場所:その子のちがう顔を見つけたら、苦手だっていう気持ちがへるかもなあ
所在ページ:p123
ひとこと:「サークル拓」による三巻シリーズの「アクション! 係活動!!」第2巻「もやもやざわつく係もある」です。
 引用は、野原にじうおさんの「カメラ係 美優のえくぼ」です。
 ほたるのおばあちゃんは、家の一階でほたる写真館をやっています。二学期の係決めのとき、美優にカメラ係に推薦されてしまいます。
 ほたるは美優が苦手。ダンスをやっていて、女子グループのリーダーで、クールできつい性格。カメラ係にされたうえに、運動会の振り付けを撮影するよう、言いつけられます。
 びしびし指図されますが、それがきつい。
 めげているほたるに、おばあちゃんが引用のようなことを言うのです。
 詩人でもある野原さんが、ほたるが美優をカメラを持って追いかけるシーンが圧巻です。
 そしてほたるは美優に、なぜカメラ係に推薦したか、その理由を探してみて、と言われるのです。

 この巻でもいろいろユニークな係活動が。
「体育係」「窓係」「苦情聞きます係」「レク係」「予言係」「カメラ係」「ボードゲーム係」。
 これを読んだ子たちは、うちのクラスにもこんな係ほしいなって思うことでしょう。

2026年3月20日金曜日

『うみになる』野原にじうお(四季の森社)

書名:うみになる
著者名:野原にじうお
出版社:四季の森社


好きな場所: どろにしずんでいこうとすると/おまえはうまれたじゃないか/うまれたおまえがこえをあげないでだれがおれたちのこえをかたるのだ/こえがした
所在ページ: P142
ひとこと:日本児童文芸家協会の新人登竜門だった(今はありませんが)「つばさ賞」の第18回で、詩・童謡部門で優秀賞・文部科学大臣賞を受賞された野原にじうおさんの初詩集です。
 野原さんは散文もこなされ、先日出たばかりのサークル・拓編集「アクション! 係活動!!」シリーズ(岩崎書店)にも掲載されていらっしゃいます。
 生きづらさを肩代わりすることはできないけれど、自分の他にもこんな子が、こんな人間がいるということを知ってほしい、という思いで、出された詩集だということで、引用は「あとがきのかわりに」という副題のついた「しにたいとばかりおもうこは つがるでくびをきられたねこにあう」という詩です。
 うんうん、わかるわかるという方がたくさんおられるのではないでしょうか。
 ぜひそういうところに届いてほしいなと思います。
 ますますのご健筆を!

2026年3月18日水曜日

『アクション! ふしぎな係活動!! ACTION3 ときにはときめく係もある』サークル拓編(岩崎書店)

書名:アクション! ふしぎな係活動!! ACTION3 ときにはときめく係もある
著者名:サークル拓
出版社:岩崎書店


好きな場所:「ともやさんからの折り紙が届いたよ」
「わー。ともや、やってくれたんだね」
所在ページ:p14
ひとこと:東京八王子で活動する児童文学同人「サークル拓」。『あける』という同人誌を出しておられます。その拓が、総がかりで、三巻シリーズの「アクション! 係活動!!」という本を岩崎書店さんから出されました。だれかだけが特に選ばれてというのでなく、全員が、というのがふだんからとっても仲の良い拓らしくて、すてきで、しかも作品が粒ぞろいうというのが、ほんとすごいことです。
 これはその第三巻「ときにはときめく係もある」。引用は、櫻井ひろこさんの「ふしぎなけいじ板 かざり係」です。
 三年生になったゆあ。担任の先生は、クラスが楽しくなる係を考えて、クラス全員になにかの係になってもらおう、と言います。ゆあは友だちといっしょに掲示板を好きなように飾る「かざり係」になりましたが、あと一人は、登校してこないともやでした……。
 実際に学童クラブの職員として、日々子どもさんがたに接している櫻井さんならではの生き生きとした子どもたちが描かれていてすてきです。

 他にもいろいろユニークな係活動が。
 この巻では「かざり係」のほか「パワーストーン係」「メタセコイヤ係」「千星くんのお世話係」「図書係」「保健係」「カメ吉係」がとりあげられています。
 メタセコイア係? さあ、いったいどんな活動をする係なんでしょうか、興味をそそられます。
 他の二巻にもたくさんの係が。
 これを読んだ子たちは、うちのクラスにもこんな係ほしいなって思うことでしょう。
 

2026年3月16日月曜日

『しょうがっこうの、いやなところ』山本悦子(あかね書房)

書名:しょうがっこうの、いやなところ
著者名:山本悦子
出版社:あかね書房


好きな場所:「うちのいもうと、うららちゃんって いうの。ものすごく かわいいよ」
「うち、ねこ、かってる」
 みさきちゃんの こたえは、なんか、ちょっと ちがう。
所在ページ:p9
ひとこと:山本悦子さんの『しょうがっこうが、きらいです』に続くしょうがっこうシリーズ第二弾。学校っていいところだよ、みたいな本はいっぱいあるけれど、きらいなところ、いやなところを並べる本はないかも。
 でも、最後は、やっぱり学校に行きたくなっちゃう。そんな本です。

 一年生のかりんはおねえちゃんになったばかり。妹をかわいがっていてミニママと呼ばれているけれど、学校にいる間、妹がおかあさんをひとりじめしているのが、気になって早く帰りたい。
 で、小学校のいやなところを頭の中でならべたてています。
 引用は、その1 おはなしする子がいない。
 かりんは、おはなししなくちゃって思って、みさきちゃんに話しかけてみますが、みさきちゃんはぜんぜん別の話を持ってきます。他の子もそう。これじゃおはなしできない。あーあ、いやだなってかりんは思うのです。
 これ、笑っちゃいます。
 いや、ほんと小さい子って、そのとき自分の頭にあることしか言わない。相手が大人なら、そうなのって合わせますが、学校では子どもどうしだから、どうしているのかなっていつも思っていました。
 さすが山本さん。まあ、子どものことを、よく知っておられます。なのに小さい子って、それでなぜか会話が成り立っていることも知っておられます。そこがかわいい。
 でも、本人は十分ちゃんとしてるつもりなんですよね。自分もそうだったし、意外に人がしゃべったこともよく覚えていて、友人の家のこと、きょうだいは何人で、家族にはだれがいて、なんてこと、今こんな年になってさえ、覚えています。
 そんなこともしっかりわかる。

 渦中の子どもさんがただけでなく、自分の子が小学校でないがしろにされていないか心配になっていらっしゃる保護者の方も、読んでみてほっこりされる本だと思います。
 
 
 

2026年2月11日水曜日

『万丸食堂、奇跡のソフトクリーム』山本悦子(理論社)

書名:万丸食堂、奇跡のソフトクリーム
著者名:山本悦子
出版社:理論社


好きな場所:(中三かあ。大きくなったなあ)
としみじみ思う。
(あのときは、小さな犬っころみたいだったのに)
所在ページ:p90
ひとこと:万丸ビルの六階食堂の名物は、グリングリンに十段もかさねられたソフトクリームだ。みんな、おはしで食べる。
 このソフトクリームは奇跡のソフトクリームと言われている。
 なぜか。十段かさねるのが難しいからか?
 どうもそうじゃなくて。不思議なことが起きるらしい。

 山本悦子さんの連作短編です。『日本児童文学』に連載されていましたが、それを加筆されたということです。

 私は連載中から、引用のお話「預かった娘」が好きでした。今読んでもやっぱりいいな。小さな犬っころみたいだった亜子が、大きくなって中三に。父が一人でソフトクリームを食べていると向かいの席に座ったのは……。
 心がぎゅっとなるお話。それに一歩引いてみると、こういうことってあるよねって思います。いえ、ファンタジーの話ではなくて心の話ですが。まわりの者が、頭の中で、こういう子だと思えばその子はそうなっていく。そう思わなかったら、意外とそうならない。そんなことも考えました。

 万丸食堂は、実在する食堂だそうで(ソフトクリームもおはしも本当)一時閉めていたのが、地元の要望で再開されたのも本当らしいです。これを読んだら、一度行って、ソフトクリームをおはしでたべてみたいですよね。