著者名:土山優
出版社:新日本出版社
好きな場所:私が興味を持つのは、結果としてレジスタンスをすることになった、いわば普通の人だ。
所在ページ:p32
ひとこと:「十年間の旅の記録」と副題にあるように、これは何かを解説する本ではないように思います。ましてや、アンネがなぜ死んだのかを解き明かす本でもない。
引用のように、アンネが隠れそして亡くなったあの時代に、ヒトラーに対して、違和感を抱き、そして「結果としてレジスタンスをすることになった」市井の人々の足跡をたどるために、何度も旅をした作者のエッセイであるように思いました。
この足跡をたどるというのは、熱意というよりは、いわばこだわり、頭について離れないなにか、外来語でいえば「オブセッション」に近いもの。
それを旅の順に書き下すことによって、最終的に、あの時代の市井の人々のやむをえない良心の発露を追い、どのようにナチスドイツがひどい政府であったかということを、虐殺そのものを描かずに描いている、そういう本のように思いました。
ユダヤ人の側から、アウシュビッツでの生活や、その周辺でのできごとを書いたものはたくさんありますが、市井の人々の良心、というところに光をあてたものはむしろ少ないと思います。たぶん、見て見ないふりをしたことに対する非難や反省のほうが、きわだってしまうからだと思います。
でも、もしこのような政府が私たちの上に君臨したとして、さあ、私たちはどうするのだろうと、考える時、この観点はとても大事だと思います。
とりあげられている市井の人は、たとえば
引き取られた女の子がユダヤ人であると知りながら密告しなかったオランダのある村の人たち。
アンネ一家の隠れ家に物資を運んで相談にのっていたオーストリア人の女性。
妊娠しているユダヤ人女性に身分証明書を渡したドイツ人夫妻。
ヒトラーを暗殺しようとした家具職人。
ビラを作成し、撒いたミュンヘン大学の学生兄妹。
その学生の父と母と姉。
そのビラをひろい添え書きをして、印刷して撒いた人。
ビラに関する協力者180名。
そのことを一切しゃべらずに斬首された学生。
この時代のことは、私たちの世代であれば、いつかどこかで聞いたような感じがするかもしれませんが、作者は聞いたこと読んだことという「観念」にはせず、一つ一つに自分の足を運び、現場を自分の目で見ることによって、今に手繰り寄せようとしています。
労作としかいいようがない、この本ですが、本当に10年もかかったということ。
こういう良心を試されるような世の中にしてしまわないこと、そして、若い方々に語り継ぎ、こういうことがあったことを忘れないようにすること、とても大事だと考えさせられました。







