2020年2月20日木曜日

「ぼくがひいおじいちゃんと花さき町に行ったそのわけは。」季巳明代

書名:ぼくがじいおじいちゃんと花さき町に行ったそのわけは。
著者名:季巳明代
出版社:∞books
好きな場所:こげたお玉や、油でべとべとになったフライパンをみて、お母さんは、
「まったく~ あの二人ったら」
と、ひとりごとを言ったが、もともとさっぱりした性格なので、それ以上ぼくたちをしかることはなかった。
所在ページ:p23

ひとこと:「おてつだいおばけさん」シリーズ(国土社)などたくさんの著作のある鹿児島県出水市在住の作家、季巳明代さんが、地元南日本新聞で2019年4月から11月まで連載されていた小説が、本になりました。
「ひいおじいちゃん」は、九十五歳。海軍の予科練に入ってパイロットになったが、戦闘機で出撃して敵弾を受け、けがをした。そのけがが元で、今でも右足のひざがうごかない。
 じつは本当のひいおじいちゃんではなく、おとうさんのおかあさんのおにいさん、つまり大伯父さんなのだが、結婚していない。それで年を取るまでずっとひとりぐらしだったが、ぼくの家でいっしょに住むことになった。
 ひいおじいちゃんは、ちょっとずれたことをしはじめる。そして花さき町に行くといってぼくを連れだすが……。

 引用のようにおおらかなおかあさんと、ひいおじいちゃんのキャラクターがとってもすてき。そして、鹿児島県の出水には海軍の特攻基地があったこと、たくさんの若者が死ぬとわかって飛行機に乗って出撃したことなどが、おじいちゃんを通してわかってくる。
 戦争の話で大変悲しい内容ですが、季巳さんはストーリーテラーなので、やさしい語り口で、読みやすく、また出てくる人がみなあたたかいのです。
 特攻の話は知っていても、実際に基地に行ってみると、ああここで訓練して出ていったんだ、という実感がわきますね。私も別府湾にある日出の人間魚雷の基地に行ったことがありますが、洞窟や側溝など、海軍の遺構が残っていて、当時の人の出入りやざわめきなどが聞こえてくるようでした。
 こういうことを折りにふれ語り、書き、みんなが忘れずにいることは、とっても大事なことだと思います。