2020年2月18日火曜日

「鐘をならす子供たち」古内一絵

書名:鐘をならす子供たち
著者名:古内一絵
出版社:小峰書店
好きな場所:「君、名前は?」
 長い沈黙の後、菊井がぽつりと尋ねる。
「……光彦」
「そうか」
 うなずくと、菊井は自分のポケットからなにかを取り出した。
「光彦君、これを君にあげよう」
所在ページ:p250

ひとこと:NHKのラジオドラマ『鐘の鳴る丘』は、もちろん私の生まれる前に放送されたものですが、話は聞いたことがあります。テレビのなかったころ、生放送で放送されて、今の朝ドラ以上にみんながこぞって聞いたという伝説のラジオドラマです。
 この本はそれをモチーフとしたフィクションだそうですが、実在の人物も出てきます。
 それが引用部分の菊井さん、脚本を書いた菊井一夫です。
 私もノンフィクションでやったことありますが、実在の人物を描くのはすごく大変、亡くなった方の場合はさらに大変、いろんな方がこの人はこういう人だったとか、こういう人ではなかった、と言いはじめ、それがことごとく食い違うという(笑)。一番大事なのはご遺族のご了解ですが、それも気を使います。
 ノンフィクションでもそうですから、フィクションならほんと大変だったのではと想像します。
 でもフィクションの形をとってこそ描ける真実というのもあるはずで、フィクションの中に実在の人物を出すというこの物語を読んでこそ、戦後の社会、特に占領時代のGHQ(ここではCIEですが)のこと、またみんなが戦争が終わって民主主義を学ぼうとしていたころのことを知らない世代が、実際の文献を読む以上にわかることがあると思います。
 練馬区のある小学校の演劇クラブに突然降ってわいた出演依頼、けいこと本番、そして放送後の評判と迷い、子どもたちの気持ちに沿ってわくわくどきどきしながら、あっという間に読み進んでしまう本です。