2019年1月29日火曜日
「アラフォーの挑戦 アメリカへ」すずきじゅんいち監督作品
新作映画『アラフォーの挑戦 アメリカへ』すずきじゅんいち監督作品の試写会におじゃまさせていただきました。すずき監督の日系二世関係のドキュメンタリー三部作を、拙作『マレスケの虹』(小峰書店)の主要参考資料欄に掲載させていただいたご縁です。
本作『アラフォーの挑戦 アメリカへ』は事前の一切のシナリオもなくインタビューしたものを、のちに編集するという手法で作られたドキュメンタリーです。
女優の松下恵さんが、一か月の語学留学にロスアンゼルスに行き、現地のいろいろな人に会って自分の興味に従って質問するという設定です。
松下さんは「この年までどういうわけか結婚できなかった。親は結婚してほしがっているのに、もちろんなにより自分も結婚したいし子どももほしいのに、どうしたらいいかわからない」という悩みを持つアラフォーの代表の一人としてそこにおられます。したがって、その質問は当然、「どうして結婚したん(するん/しないん)ですか」「結婚して/しないで幸せですか」という種類のものとなります。
プライバシーを考えると、現実の生活では、なかなか面と向かってはしにくい質問に、いろいろなアメリカ人が真摯に、そして正直に答えてくれます。
ある人は、最初の妻に死なれ、その次の妻にも死なれているけれど、今は親しいパートナーがいて週四日はボランティアで働いて充実しているといいます。
そのパートナーは子どもができてから離婚し、その子を育てるために女手一つで事業を起こしたこと、そして、その後結婚した人に先立たれて、今は恋人はいて幸せだけれどその人と同居はしないことなどを語ります。
あるカップルはゲイで、ゲイは現地では合法に結婚できるけれど、迫害を受けてきたこと、なにより親がゲイ同士の結婚に反対したこと、それも片方がHIV陽性だったからだなどの事情を語ります。
普通では聞けない話だと思います。でも彼らは年のことで悩む松下さんに言うのです、結婚を望んでいるのはあなたなのか、親なのか、と。
最後の人は、年齢の悩みは、結局は妊娠適齢のことだと理解したうえで、自分はアイビーリーグ(有名大学)卒業者を対象とした精子バンクから、精子の提供を受けることを考えたこともあることを告げて(そうはしなかったのだけれど)、松下さんに、卵子の冷凍保存を勧めます。日本人からすれば非常にびっくりする考えですけれど、彼女は言うのです、冷凍保存しておけば安心でしょ、そうすれば、つきあうときに圧迫感を感じさせないでいい。
ベストな解ではないかもしれないけれど、すごく合理的だと思いました。冷凍保存がいいことかどうかは別にして、何がいわゆるアラフォーの人の結婚をさらに遠ざけているかといえば、年限が迫っている、決めてしまいたい、決めなきゃだめだ、という相手に与えるせっぱつまった感じなのではないのかな、というところがです。だから相手は恐ろしくなって逃げる。冷凍保存すれば心に余裕ができて、その圧迫感を感じさせない。かえってつきあいがうまくいく(から結婚できて、ひょっとしたら冷凍保存した卵子は必要ないかも)というパラドックスです。
彼女はさらに大事なのは優先順位だとも言いました。それはすなわち、自分は子どもが欲しいのか、それとも、理想の旦那さんが欲しいのか考えるということでしょう(彼女の旦那さんはすばらしい人ではありますけれどね)。
私はそういう悩みはなかったですが(早く結婚すれば別の悩みがありますが、ある意味でそれも同種の悩みでもあります)、それでも、かなりの人が仕事と両立して結婚生活をすることが前提となるこの時代に、結婚とはなにか、ということを書くことのある者として、とてもおもしろいドキュメンタリーだと思いました。アラフォー世代の人だけでなく、その親世代もぜひ見ていただきたい映画だと思います。
上映は
東京・新宿 K’s chinema 2019年4月6日から19日
横浜・シネマ ジャック&ベティ 2019年4月13日から26日
その他全国順次公開とのことです。