2024年4月21日日曜日

『すきまの むこうがわ』巣山ひろみ(国土社)

書名:すきまの むこうがわ
著者名:巣山ひろみ
出版社:国土社



好きな場所:白いきつねの おやかたさまは
三国一の 果報者
花嫁さまは あかい紅
所在ページ:p22
ひとこと:国土社の「パステルショートストーリー」シリーズの9冊目です。今回は「Deep  Red」ということで、深紅がテーマ。引用の花嫁様のあかい紅も、おそらくオレンジ系よりは深紅のイメージじゃないのかなと思います。
 日常なんだけれど、何か不思議なことが起きる。そんなお話を得意とされる巣山ひろみさんが、7編の短編を書かれています。
 小学校中学年から読めるでしょうけれど、人に聞いたところでは、中学生も喜んで読んでくださっているらしいこのパステルショートストーリーシリーズ。まだまだ続巻が出そうです。

2024年3月20日水曜日

『たとえリセットされても』文研出版の新刊見本が来ました

『たとえリセットされても』(文研出版)の新刊見本が来ました。
春らしい色で、すてきです。

 
 近未来を舞台にした中学年むけのお話です。
 愛は、四年生のはじめに転校してきました。お友だちもできて、毎日学校にいっしょに通っていますが。でも、愛のことを変だという子もいて……。

 技術が進み、AIやロボットが、人間の知性を超える時(シンギュラリティ)は来るのか、超えられたとき人間はどうなるのか、人間に限りなくロボットが近くなってくると、その過程で機械には感じなかった気持ち悪さを感じる「ぶきみの谷」というものがやってくるが、そのとき人間側の嫌悪感をどう扱うべきか、などなど様々な問題が起きることが予想されています。
 でも、そもそもAIはどうやって思考しているのかといえば、人間の創造の積み重ねを取り込んでいるだけ、ともいえ、恐れるに足らず、それよりはそのAIやロボットを人間がどう扱うかのほうがよほど問題だという考えもあります。
 これからの子どもたちは、そういう社会のまっただなかに生きていくわけで、興味がないではすまないことになりましょう。
 AIやロボットを考えることは、とりもなおさず人間を考えることなのだ、ということを心において、よりよい時代をつくってほしいと思い、この物語を書きました。
 どうかお読みいただければ、幸いです。

2024年2月22日木曜日

『ぼくの町の妖怪』野泉マヤ(国土社)

書名:ぼくの町の妖怪
著者名:野泉マヤ
出版社:国土社


好きな場所:昔、川の向こう側はめったに行けない場所でした。つまり、自分たちが毎日生活する場所とはちがう世界だったのです。そのちがう世界との間を境界といいます。
所在ページ:p46
ひとこと:野泉マヤさんは、宮城県にお住まいで、地元でいろいろな活動をされている方ですが、その中の一つに身近な妖怪伝承を調べる「妖怪現地調査」があります。妖怪の出現する場所をプロットした町の地図を拝見したことがありますが、とっても見ごたえがありました。東北の作家仲間である堀米薫さん、佐々木ひとみさんとの共著「みちのく妖怪ツアー」シリーズ(新日本出版社)は好評で、巻を重ねつづけています。
 今回も町の妖怪がテーマの短編集です。
 邦彦の家の近くの空き家に、若い男性が引っ越してきます。その人は、もともと住んでいたおじいさんの孫らしいというので、行ってみることに。おじいさんは邦彦が幼稚園のころ、天狗や河童の話をしてくれたのでした。どうもそのお孫さんという人は、妖怪の研究をしているらしいのです。
 というわけで、邦彦と友人のマミは、そのお孫さんこと、円さんに、いろいろ妖怪の話を聞くことになるのですが……。
 ほんとうにあったのか、なかったのか、不思議なお話。それぞれの妖怪の由来もわかってとてもおもしろいです。
 

2024年2月3日土曜日

『彼女たちのバックヤード』森埜こみち(講談社)

書名:彼女たちのバックヤード
著者名:森埜こみち
出版社:講談社



好きな場所:髪の毛の二、三本くらい、あの子にくれてやればよかったじゃん
所在ページ:p24
ひとこと:詩織と璃子と千秋。仲よしの三人組に見えますが、それぞれがそれぞれに対する気持ちは異なっていて、バックヤード、つまりそれぞれの家庭も違っています。
 すれちがいがなにげない言葉になって出てきます。
 でもそれにはちゃんと理由があるのです。
 引用のところ、あの子というのは、璃子の弟ですが、とってもやんちゃ。千秋にかみついてしまいますが、それを止めなかった璃子が悪いと言った詩織を、なぜか被害者のはずの千秋がこう言って責め、璃子のほうをかばったのです。
 なぜ? どうして? 悪いのはあっちじゃないの、と思う詩織。
 しかし、だんだんに、そのバックヤードがわかるにつれて、三人の関係は変わっていきます。

 ああ、こういうことだったのだな、だからあの人はこういったのだな、と大人になってわかることでも、あのころはわからなかった。あのころに戻れたら、理解しあえるのに、と思うことってたくさんあります。
 今、友だち関係に悩んでいる最中の人も、この本で、ちょっと立ち止まって、他の見方もあるかもと思えば、楽になるかも。

2024年1月21日日曜日

『となりのきみのクライシス』濱野京子(さ・え・ら書房)

書名:となりのきみのクライシス
著者名:濱野京子
出版社:さ・え・ら書房




好きな場所:なんでわたし、ヒップホップをあきらめてしまったのだろう。あの時。
所在ページ:p112
ひとこと:袖には「子どもの権利って何? 大人は知ってるの? 守られてるの?」とあります。子どもの権利条約を子どもにわかりやすく説くお話だとすぐにわかりますが。
 権利というのは、お題目ではなく、その生活のはしばしに現れる、ごくささいなことに具体的にどう関係しているのかを考えることが大事です。権利を説明するのはできても、そここそがなかなか大変なのです。
 それなのに、このお話はほんとうに細かい部分まで考えられていて、さすが濱野さんです!

 六年生の葉菜は、あるときふと気づいてしまいます。同級生の紳に、担任のスギッチがこまごまと配慮をしているのに。なのに、紳のほうはなぜかいやがっているようす。
 一方葉菜の母は、プライバシーに配慮してうわさ話などは慎むタイプで、子どもに対する理解もあってよさそうなのですが……ある日。

 権利とは正義一方のものではなくたくさんの権利が拮抗するものだから難しくて、特に子どもの権利は、パターナリズムとの関係で一刀両断にはできないわけで、とっても書きにくいのですが、何より子どもがそれが自分の権利だと気づくことが第一歩のはずなので、それを考えても、これはとってもいいお話だと思います。たくさんの方に読まれ、また考えてもらえますように。
 

2024年1月20日土曜日

「季節風157号」に、佐藤まどかさんが『恋愛相談 「好き」だけじゃやっていけません』(静山社)の書評を書いてくださいました

 「季節風157号」に、佐藤まどかさんが『恋愛相談 「好き」だけじゃやっていけません』(静山社)の書評を書いてくださいました。

タイトルは「森川さんが恋愛ものを書いたって?!」


ここにも書かれていますが、まどかさんは、生原稿を季節風大会に出したときにも読んでくださっていました。ほんとこのときの合評で皆さんに言われたのは、八割がた物語の内容ではなく(笑)、恋愛相談の料金(任意なんだけど……)と、高校生のお小遣いの額でしたね。現役高校生に一番距離が近いTさんが、いろいろこまごま教えてくださって。あと、皆さんが衣装やイケメンの容姿のヒントもくださいました。その節はありがとうございました。

まどかさん「これはいわゆる恋愛小説ではない。恋愛問題をテーマにした物語だ。なるほど!」と言ってくださっておりますが、そうなんです! なかなか気づいてくださる方がいないように思ってちょっとめげていたので、そう書いてくださってうれしかったです。

恋愛を書くときは恋愛というものを、かさおばけを書くときはかさというもの、おばけというものを、かわらばんを書くときは、かわらばんというもの、報道というものを……。どうもわたしはそういうのがおもしろいと思っているところがあるので(ツボるので)、あんまり評価されないかもしれないけれど、たぶんこれからもそういう書き方をするのかなあって思います。

「ブルータスよ俺もか」ということですので、まどかさんの恋愛もの、楽しみに待っております!

2024年1月15日月曜日

『なすこちゃんとねずみくん』堀米薫(新日本出版社)

書名:なすこちゃんとねずみくん
著者名:堀米薫
出版社:新日本出版社



好きな場所:みみずのうんちはおくりもの
所在ページ:p6
ひとこと:前にご紹介した『はくさいぼうやとねずみちゃん』(https://saffibarinkay.blogspot.com/2021/05/blog-post.html)と同じこがしわかおりさんの絵で、今度も主人公はねずみくんです。
 でも前のお話は冬で、今度は夏です。
 ねずみくんが、畑でひろったじゃがいもにかじりついていると、陽気な歌声が聞こえてきます。でも引用のような、奇妙な歌詞でした。
 歌っていたのは、なすの苗のなすこちゃん。
 自分の巣穴に戻っても、ねずみくんの頭には、この奇妙な歌詞がこびりついて離れません。ねずみくんが次の日畑にいくと、またなすこちゃんは歌っていました……。

 堀米さんは、現役農家さん。肉牛の肥育の他にも田んぼ、畑と毎日忙しく働いておられます。その畑仕事の間に、このお話を考えられたそうです。
 わかっていたつもりの私たち大人も、そうかなすは夏に強いのか、こんな種なんだなど、はっと思うことがたくさん。
 子どもたちならさらに、たくさんのことをこの絵本から発見してくれることでしょう。
 多くの子どもたちに読まれますように!