2026年10月22日木曜日

『ランゲルハンス島の虹』好美松(小峰書店)

書名:ランゲルハンス島の虹
著者名:好美松
出版社:小峰書店


好きな場所:「そうだけど。突然、注射しはじめたら、びっくりするよ。見た人はぎょっとする」
「ぎょっとする?」
「そう! 気もち悪いって、思うよ。わかる」
所在ページ:p154
 ひとこと:日本児童文学者協会の長編児童文学新人賞の第24回の受賞作です。第一席となり出版されました。
 小峰書店さんには、審査員の一人として感謝です。
 売れるものと、出したいもの、その間で出版社さんはいつも葛藤をかかえておられるわけですが、このような賞では、売れるかどうかわからないのに、出版するという約束を無理やりさせてしまうわけなので、それは審査員として責任を感じます。
 でも、世に出てほしいもの、子どもたちに読んでほしいもの、それは審査員を引き受けた以上、選ぶ社会的責任というものがあると、不肖私は思っているので(もちろん好みはそれぞれありますけれど)推しました。
 しかし、応募される方にこの場を借りて申し上げたいのは(たぶん検索で来られるでしょうからね)、必ずしも社会的な論点を含む必要はなく、良い作品、力のある作品であれば、必ず人はひかれる、ということです。こういう賞には、いろいろうわさがあって(私も公募時代そういうものにふりまわされて、かなりの時間をムダにしましたが)あの審査員はこういう好みだ、下読みはこういうのが好きだ、などどれも説得力があります。でも審査員をやってみて、そういうこっちゃない、とよくわかりました(あのムダにした私の時間を返して(笑))。

 さて、この本ですけれど、主人公はⅠ型糖尿病の中学生です。みかけは病気に見えませんが、日々、気を付けなければならないことがとっても多く、うっかりすると死んでしまいます。でもこの子は、思春期に入ったところで、心配したり管理したりする親がうざくてしょうがありません。
 そのうえ世間には偏見があり、血糖値を下げるお茶を勧められたり、絶対必要なインシュリンの注射を引用のように、疑わしい目で見られたりして、こそこそしなければならないのです。
 そんななか、どうやって日々の憂さを乗り越えていけばいいのか。
 頭で理解してほしいというのではなく、この子になって、ぜひ子どもさんがたに体験して欲しいと思いました。それだけ、読者がこの子になりきれるだけの筆力が、この作者にあったということでもあります。

 Ⅰ型糖尿病は、理解されにくい病気だなと、本当にこの本を読んで思いました。運動不足でもなく、甘いものの食べすぎでもなく、薬だけでなんとかなるものではなく(血糖値の管理とインスリンの注射が必須)、遺伝でもなく、そして一生続くのですね。
 昔、小学校のころクラスにすごく細い子がいて、みんなが「あの子は糖尿病なんだよ」と言っていました。別に体育もいっしょだったし、遠足にも来ていたし、困っているようなそぶりはなかったです。でも、今みたいに血液で測定できる電子機器もない時代(私は四十数年前、妊娠糖尿病になったけど、その時だって尿をとって試験紙にかけて測定してましたから)ほんと今になって、あの子はたいへんだったんだなあと思います。

 たくさんの方が読んでくださいますように!