2023年9月26日火曜日

『暗やみに能面ひっそり』佐藤まどか(BL出版)

書名:暗やみに能面ひっそり
著者名:佐藤まどか
出版社:BL出版
好きな場所:とうさんが他の女の人を好きになっちゃったとき、かあさんにも生成くらいの角は生えていたと思う。
 でも、かあさんはえらかったなあ。真蛇どころか、般若にもならずに、ちゃんとかあさんにもどったもん。




所在ページ:p82
ひとこと:小学四年生の宗太の父と母は離婚して、父には新しい家族がいる。夏休み、母は出張で外国に行くことになった。宗太を父に預けようとしたが断られ、宗太はしかたなく京都の祖父母の家に行くことになったのだ。この祖父母は父の両親なのだが、離婚が気に入らずに父とは疎遠になっている。
 ひさしぶりに行った家で、宗太は能面師の祖父の指導のもと、能面を打ってみることになる。
 そして引用のように、知らなかった能面の世界を知るようになるのだ。

 角の生えた般若の面は、キーホルダーなどでおなじみですが、それはみんな元は女の人で、まるでポケモンの進化のように、生成→般若→真蛇、ということになっているとは知りませんでした。そう思ってみると、また別の見方ができるような。
 インダストリアルデザイナーで家具の工房などにしょっちゅう出入りをなさっていて、物作りには詳しい佐藤まどかさんの筆ですから、面の打ち方や、形などたくさん知らなかったことが書いてあります。
 主人公宗太の母を見る目もちょっと変わってきたかも。
 アンマサコさんの絵が幽玄でとってもすてきです。

 お能は難しくて、狂言なら見るけど、という人は多いと思いますが、こんな本を読んでいれば違うかもしれません。
 実は能のお話には、歌舞伎や近代文学になった筋も多くて、ああ、これはもとはお能だったのかなんて思うこともしばしば。
 こちらのBL出版さんでは、この本の他にも能の絵本を出していらして、この能面のおはなしと一緒に読むと、知識も増えるだろうなと思いました。