2023年3月2日木曜日

『おはようの声』おおぎやなぎちか(新日本出版社)

書名:おはようの声
著者名:おおぎやなぎちか
出版社:新日本出版社




好きな場所:鍵を回して、ドアを開けると、おばさんの雪道用のサンダルがきちんとそろえられていた。
 前と何も違わない玄関。でも何かが違う。
所在ページ:p128
ひとこと:おおぎやなぎちかさんの新刊『おはようの声』です。
 これは十年以上前、季節風で何話か掲載されたもので、ちょうど私が季節風に入ったぐらいでしたので、前半部分はひょっとして読んでいないかもしれません。でも引用のシーンは覚えています。
 二組のきょうだい。隣どうしに住んでいます。主人公ゆっこのおにいちゃんは大きいので、いっしょに遊ぶというわけではありませんが、何となくちょっかい出してきたりしています。かといって、年齢が近い下の二人が仲がいいというわけでもなく、主人公はむしろ、隣家のおねえさんのほうにあこがれています。でも、いっしょに、交換お泊り会みたいなことをしてみたり、かまくらを作ったり、そりで遊んだり。
 で、何もない平和な日々のように思われていましたが、何かが起きます。
 私はこの話が、おおぎやなぎさんの作品で一番好きで、本になればいいなという気持ちはもちろんありましたが、妙に変わって本になるのも、ちょっともったいないなという気持ちがありました。
 でも今回、季節風のときとは違って、現代が舞台になりましたが、雰囲気は変わらず、主人公のこまやかな気持ちがそのままで、とってもいいご本になったように思われました。
 何より、ご上梓、おめでとうございます!
 カバーのやわらかいピンクの絵も、カバー下表紙の雪の結晶もすてきです。

 季節風で今、私は編集委員として掲載不掲載を決める側にいますが、掲載ならいいですが、不掲載は、いつも何か申し訳ないという気持ちがあります。作品評を書くときは、いったいどう言ったら不掲載のわけをわかってくれるのだろうかと、毎回、悩みます。
 作家は、自分の作品のことは、自分で考えて工夫するべきだから、説明する必要はないという考え方もあるかと思いますが、たぶん最近、掲載作が少ないので、どこが掲載ラインなのか、みんなわからなくなっているかもしれないなどと思います。
 もちろん、私たちはクリエーターですから、人のまねをしてもしかたなく、人に何と言われても、臆せず自分を貫くしかないし、はねられても自分と好みが違うときは、平気でいればいいのですが、それでも、ああいうのが書いてみたいという気持ちは大事だと思います。ああいう水準だけど、あくまで自分の、という意味ですが。
 その意味では、ご自分の作風とは違うかもしれませんが、ぜひ、こういうお作品を読んでみていただきたいなあと、思います。