著者名:かくたえいこ
出版社:文芸社
好きな場所:さち子はそんなことになっていたなんて、全然知らなかった。
夜中に大きな声がして目がさめた時、となりの部屋でお父ちゃんが、「勝手にしろ」とかどなっていて、お母ちゃんの泣き声が聞こえたことがあったような気がするけど、よく覚えていない。
所在ページ:p32
ひとこと:戦後まもなく、石炭自動車がまだ走っていたころ、さち子は、小学校へ行く前の年に、突然お母ちゃんに、リュックに持っていきたいものだけつめろと言われます。
お出かけするのかとわくわくしてついていくと、もう家には帰らないと告げられるのです。
理由はお母ちゃんの育った家を守るためでした。そのためにお母ちゃんはお父ちゃんを置いて、さち子だけを連れて出てきたのです。
さち子とお母ちゃんの二人暮らしが、お母ちゃんの実家のある田舎で始まります。
かくたさんの自伝的な物語で、主にうつのみや童話の会の会誌『ふらここ』と、『季節風』に掲載されていたものです。わたしもその両方で、何話か読ませていただいています。
今回、そのうち4話を選んで、本にされました。
帯には、季節風の重鎮で、うつのみや童話の会の親方こと高橋秀雄さんが、「昭和には『詩』があるという」から始まる文を寄せておられます。
お母ちゃんは元学校の先生で、さち子には3人の兄がいて、一番上のお兄ちゃんは先生になるべく大学の寮に入っています。いずれさち子も先生になると知っていて私たちはこの物語を読んでいるのですが、お母ちゃんとさち子の大変さは、半端ではありません。お母ちゃんはもう学校の先生をやめているので、畑と店をやって生計を立てていて、お母ちゃんは小さなさち子を頼りに、この二人だけの生活を乗り切っていこうとしているのです。
そんな二人のようすが、せつなさと、あったかさを伴ってつづられています。