2021年11月5日金曜日

「風の神送れよ」熊谷千世子 小峰書店

書名:風の神送れよ
著者名:熊谷千世子
出版社:小峰書店

好きな場所:死者が出ても葬儀どころでなく、近所の人たちが手ぬぐいで口をふさぎながら、すぐに穴に埋めてしまっていた。そのせいで、なかには地中で息を吹きかえす人もいたらしい。
 そのため土のなかに竹をさしいれて、外から耳をあてては、なかでうなり声をあげていないか様子をうかがったくらいだそうだ。
所在ページ:p118
ひとこと:信州の伊那谷のある地区では、昔から毎年二月に「コト八日」という行事をすることになっている。二日がかりで行われ、最初の日は家々をまわってコトの神(疫病神)を集めてあるき、二日目にそれを村の外に送っていく。全部中学一年生以下の子どもだけで実施される。最年長はリーダーの「頭取」になる。主人公の優斗は六年生なので「補佐役」になった。ところが頭取の中学一年生の凌さんが……。

 引用は、主人公が聞いた、大正時代のスペイン風邪のころの話です。昔から人々は疾病と戦ってきて、そして今コロナで同じような経験をして、「アマビエ」様に頼ったりして、そしてああ、こういうつもりで先祖たちが行事をしてきたのだなと、その気持ちをやっと理解しているところでしょう。
 そんな今、子どもたちだけで行われる伊那谷の行事。この本の中でも、コロナは登場し、コト八日が実施されるかどうかが検討されています。実際には今年は中止されたそうですが、この物語の中では話し合いの結果、実施されます。主人公たちは、寒い中、村はずれまでコトを送りにいって、何を見たのでしょうか。
 昔も今も変わらない人々の心を考える物語です。