書名:
『ねむの花がさいたよ』
著者名:
にしがきようこ
出版社:
小峰書店
好きな場所:
「ママがたくさんいる。あたしの知らないところにいっぱい行って、こんな顔して、お仕事してたんだ」
所在ページ:
p54
ひとこと:『ピアチェーレ 風の歌声』で日本児童文学者協会長編児童文学新人賞と、椋鳩十児童文学賞を受賞されたにしがきようこさんの最新作です。
今度は四年生が主人公の中学年向きの物語です。
きららのママは、出張先のホテルで突然になくなってしまいます。パパはもうとっくになくなっていて、おじいちゃんおばあちゃんと同居していたので、生活じたいが変わるわけではないのですが、ママはいない。そこへママの妹であるハルちゃんが実家にもどってきます……。
ママが突然死んだという設定は、文学的には決して珍しいものではありませんが、災害の続く中、実際に珍しいものでもなくなっているという悲しい事実もあります。「天国で見てる」「心の中に生きている」などというセリフは「絆」同様使い古されてしまい、いまさら心になにを訴えるのだろうと思うときすらあります。
にしがきさんは、そういう言葉を一切使わずに、突然娘を、姉を、母を亡くしたこの一家のようすをていねいに追いながら、ああ、ママは決して虚空に消えてしまったのではないのだ、ということを納得させてくれます。
死が絵空事ではないのは、にしがきさんが幼少時代に死と毎日向き合われたその経験からくるのだと思います。
にしがきさんは悲しいけれどさわやかなきららちゃんの物語を、『ピアチェーレ』でも見られたすばらしいイメージと言葉の融合をとおして、派手ではないがうつくしいねむの花のように私たちの前に提示してくれています。