2012年3月6日火曜日

紅に輝く河 濱野京子

書名:紅に輝く河
著者名:濱野京子
出版社:角川書店
好きな場所:ファスールの統治で、もう一つサルーが不思議に思ったのは、軍事的にアインスと並ぶ強国でありながら、文民統制がされていることだった。ファスールの兵は強い。だが、軍事部門の長は、王府の下に置かれており、王府の決議なしに兵を動かすことはできない。
所在ページ: p60
ひとこと:角川書店の銀のさじシリーズの中の濱野京子さんの「シューマ平原シリーズ」の第三弾です。第一弾は「碧空の果てに」でみどりいろ、第二弾は「白い月の丘で」で白、そしてこの第三弾は「紅に輝く河」であか。美しいイメージを、丹治陽子さんのすてきな絵が貫いています。
同じシューマ平原を舞台にしていますが、ここはまるで中国のようにとても広くて多様な国家なスタイルの政治形態をとる国家が、割拠する場所。三作はそれぞれ違う国の話です。しかし、読んでいる人には、他の作品の主人公がたとえば国際ニュースに知った国の政治家が出てくるようにときどき姿を現し、あ、あの人は今こうしているのだ、ということがわかるというお楽しみのしかけがされています。
引用は、本書の舞台となるファスールの政治形態について述べたところです。私は法学部の出身で、政治学や政治史は若いとき半ば義務のように思ってしかたなく勉強したのですが、そういう無駄な勉強ほど頭ではなくて体に残るものらしく、異世界ファンタジーでもそういう部分がいいかげんだと体の芯がどこかむずむずして物語に入れません。そんな人間はあまりいないと思われるので、別に異世界ファンタジーにそういうことが不可欠という意味ではないのですが、濱野さんはその部分もきっちりとお書きになる方で、安心して読めます。もちろん、主人公の恋、女としての生き方、運命などぞくぞくするすてきな部分も、そして坪田譲二賞をおとりになった文章力・表現力もそれはそれは私なぞがあらためて申し上げるまでもないのですが。

角川銀のさじシリーズは、子どもから大人まで楽しめる作品ということで、特に子ども向けの内容という枠がないのか、引用のようなことも書けるのですね。そのせいか、濱野さんの筆はのびのびしておられるように思います。JBBY賞もおとりになり、ますますのご活躍。次のお作品も待ち遠しいです。個人的には、濱野さんがお詳しい中国の話が読みたいなあ。

内容の詳しいことや主人公たちについては、銀のさじシリーズに特集があってそちらのほうがわかりやすいと思いますので、↓にリンクしておきます。

http://gin-no-saji.com/book_1201a/sp.html