2020年3月31日火曜日

「『少年』『少女』の誕生」今田絵里香 ミネルヴァ書房

書名:児童文芸2020年4・5月号
著者名:日本児童文芸家協会
出版社:あるまじろ書房
好きな場所:わたしはこの本をとおして、児童文学には読者の人生を左右する大きな力があることを描きたいと思いました。それはこわいこと、素晴らしいことでもある。児童文学とそれを載せるメディアは、子どもの男らしさ・女らしさを作って、その人生を自由にも不自由にもする。(今田絵里香)
所在ページ:p75


ひとこと:雑誌『児童文芸』には「この一冊ができるまで」というコーナーがあって、もともとささきありさんという方が企画されたものですが、これが本のメイキングがよくわかるとなかなか評判です。今は私の担当なのですが、今回は今田絵里香さんの「『少年』『少女』の誕生」(ミネルヴァ書房)を取り上げさせていただきました。
 これがこのコーナーにしては異色、なんと「学術書」なんです!
 今田さんはメディア論がご専門の社会学の学者さんなのですが、『春に訪れる少女』(文研出版)という本を書いてもおられる児童文学者さんで、プレアデスという同人にも入っておられて、日本児童文芸家協会の会員でもいらっしゃいます。

 このメイキングにも書かれていますが、実は今田さんがつばさ賞を受賞されて受賞式においでになったとき、その懇親会で私はおとなりになって、学者さんだということを知って、そのころ理事長だった村松定史先生のところにひっぱっていきました。村松先生はフランス文学の学者さん。お話するうちに「じゃあ、あなた児童雑誌の歴史を、『児童文芸』に連載してよ」とおっしゃって、今田さんが「わかりました」と。で、私が児童文芸の編集委員会にもちこんで、こんなわけですのでページくださいと(笑)。それでたった1ページでしたが、児童雑誌の歴史のコーナーが始まったのです。わたし、こんなすごいことはない、と張り切ってレイアウトも斬新にしたのですが、なんの手違いか、平凡なレイアウトになってしまいがっくり。なお実際の担当者は私ではなく、原山ゆうこさんがやってくださいました。
 でもあとから考えたら、そんなことより、せめてがんばって2ページもらっておけばよかったな~~と。私も編集委員としては新人でしたので、そこまで言いきれませんでした。
 今田さんはなんとその1ページにとんでもない情報をつめこんでくださって、上質の連載に。外国の学会に行かれる準備でお忙しいときも着々と原稿を入れてくださいました、謝礼はほとんどないも同然というのに。
 そうしたら、そのあとこんな本ができてしまった! 


 今田さんはこれは児童文芸の連載がベースですとおっしゃってくださっていますが、量的にそんなことはありません。連載は本当に文字数が少なくて梗概にもならないぐらい。でもそういっていただけるだけで、編集委員みんな喜びます。

 このご本は、学術書です。少年少女雑誌と「少年」「少女」という概念がどのように生まれてどのように変遷したのかを、ていねいに論証しておられます。でもその根底にあるのは、引用のような今田さんのお考えではないのかと思います。
 自由にも不自由にもする、私ども作家も心しなければならない大事なことですよね!

 児童文芸家協会には隔年のノンフィクション賞がありますが、柔軟に考えてこのような内容も範疇に入れていただけないんでしょうかねぃ……こんなこと私がいっても余計なこと言うなと叱られてしまうでしょうが。ごまめの歯ぎしりで一応書いておきます~~(笑)。