2014年1月28日火曜日

「すてもる」はやみず陽子 佼成出版社

書名:すてもる
著者名:はやみず陽子
出版社:佼成出版社
好きな場所: (まてよ。じゃあ、美咲は知ってたのか?)
「おまえ、ここがそういう場所だって知ってたな。わざわざ教えにきたのか」
「ちょっ、啓太、なに言ってんだよ」
 悠馬が止めにはいったが、啓太は悠馬をおしのけた。
「そういう場所ってなによ。失礼でしょ」
所在ページ:p76
ひとこと:私が季節風という同人に入ったのは、いろいろな理由がありますが、きっかけは河童の会という高橋うららさん主宰の勉強会に、はやみず陽子さんが参加されたことからでした。
 その人になりきる、子どもの目線で描ききる、ということをいつでもはやみずさんは徹底しておっしゃって、その切れのよさに、メンバーはみな感心したものでした。そして主人公になりきる、ということが、はやみずさんの師匠である高橋秀雄さん、ひいては季節風の後藤竜二さんの教えであったことを知って、ここでも勉強してみたいと思って季節風に入れてもらったのでした。
 そのはやみずさんは逆に、今までお持ちだったお原稿に手を入れては、宇都宮からはるばる東京までせっせと通っていらして、河童の会に出されました。
 そのお原稿のひとつがこの「すてもる」です。
 実ははやみずさんには季節風では定評のある「のまちゃん」シリーズというのがあって、それは後藤さんも気に入っておられたお話で、きっとこれでデビューされるのだろうと季節風ではだれもが思っていました。
 実は出版決まりそうなのよ、というお話をうかがったときも、私はのまちゃん?と聞いたのですが、いえいえ、すてもる、ということで、実はびっくりしたぐらいでした。
 でも、よく考えてみれば、それは本当にあたりまえのことでもありました。
 彼女は、動物が大好きで、今もねこを5匹、犬を1匹飼っておられるぐらいです。そしてこのすてもるも、実は彼女の実体験で、さらに一番最初に書かれた物語だったということですから。
 ほんとうにそんなデビュー、おめでとうございます。
 出るべくして出たご本だと思います。
 きっと彼女が今まで愛し、かわいがり、世話をしてきたたくさんの生き物の魂が、応援してくれたにちがいありません。

 

 ところで、肝心の本の中身ですが。
 実体験ということだけならば、捨てられた犬や猫をひろってきて、おかあさんに家では飼えないと断られ、泣く泣く戻しに行ったということはだれにもあることと思います。
 そういうお話とこのお話が一線を画するのは、さらにその先、主人公の啓太が引用のように自分なりに方法を模索し、動物愛護センターに行き、現実を知ることです。センターを紹介した美咲ちゃんは美咲ちゃんで、日々現実に直面してそれなりの思いがあった。美咲ちゃんの思いと啓太の思い、そして愛護センターの河井さんの思い、それをちゃんとかき分けていることです。

 きっと子どもさんがたは、この物語を読み、啓太に自分を重ねて、自分ならどうするだろうと考えるだろうし、すべてを飼えるということはありえないという現実を前にして、夢物語や言葉だけの正義ではなく、実際にどうすべきか、ということまで考えてくれることだろうと思います。


 はやみずさん、デビューおめでとうございました!!