2015年3月31日火曜日

「ことづて屋」濱野京子

書名: ことづて屋
著者名: 濱野京子
出版社: ポプラ文庫ピュアフル
好きな場所: 美幸は思い出したくない過去をえぐられたという風に津多恵を睨みつけた。その目を真っ直ぐに見返して、津多恵は言葉を続ける。
所在ページ: p239
ひとこと:『トーキョー・クロスロード』で坪田譲治文学賞をとられた濱野京子さんの新作です。同じポプラ文庫ピュアフルですが、こちらは、書下ろし。
 ぱっとしないみかけで、方向音痴、不器用で中学校のときは気弱くカツアゲなんてされていた津多恵は、ある日突然能力を見につけます。
 それは死者からの伝言を承ること。その伝言はちゃんと伝えなければ、自分が苦しいというとんでもない能力でした。でも津多恵は、何とかその役目を果たそうとします。ただし、お伝え料を取って。それにしても引用のように、見ず知らずの人に死者の代理として会うことは、死者と同視されることもあり、つらいのです。最初のお客さん(?)だった美容師の恵介は、津多恵にヘアとメイクを施します。すると津多恵は、みちがえるばかりのみかけになるのです。

 突然死んだ人と、何か話をしたいという思いはだれにもあるのでしょう。震災などで肉親や友人
を亡くした人にはことに切実です。何か言いたかったのではないか、何か言ってくれるはずだったのではないか、そう思うと思います。もし伝えてもらえれば、その後の人生も変わるのではないか、きっとそんなやさしい作者の思いが想像を呼んで、この作品になったのではないかと思います。東日本大震災を直接描いたわけではないけれど「大震災が起こらなかったら、この物語は生まれなかった」と作者はあとがきで書いておられます。

 死者と伝えられる人のそれぞれの人生が多様でおもしろく、津多恵と恵介のコンビも抜群で、続巻が楽しみな物語です。