2014年11月29日土曜日

「声の出ないぼくとマリさんの一週間」松本聰美

書名: 声の出ないぼくとマリさんの一週間
著者名: 松本聰美
出版社: 汐文社
好きな場所: 世の中って、あんなふうなことがたくさんあるのかもね。本当とはちがうことをかってに感じちゃうってこと
所在ページ: p153
ひとこと:毎日小学生新聞に今年連載された「マリさんとの一週間」が単行本になったものです。作者の松本聰美さんは、実力派同人の「ばやし」の方。リアリズムの筆のさすがの運びに、あっとうならせられます。

 主人公のぼく、真一は、四年生の終わりに友だちに言われたことがもとで、声が出なくなり、五年生からは学校に行けなくなります。パパはぼくがママのおなかの中にいるときに、山で遭難して死にました。一人で育ててくれたママは、仕事で大抜擢されて、アメリカ出張に一週間行くことになりますが、おばあちゃんたちには心配させまいとぼくが声が出ないことを話していないので、ママは一計を案じて、幼馴染のマリさんにぼくを預けることにします。ところがそのマリさんは、ガラガラ声で、背が高く、大きな顔は馬を思わせるような人で、つけまつげをつけるのに時間がかかったといいながらも、ひげがぽつぽつとあり……。

 片親、いじめ、不登校、性同一性障害の登場人物が出てくるお話は、今の時代、決して珍しくはないように思われますが、このお話がそれらと一線を画しているところは、引用のような人生の哲学が、会話にちりばめられているところではないかと思います。

 ほかにもそういうところはたくさんあって
「だって、聞かれたって説明できないこと、あるでしょ。いいたくないことだってあるし、どうだっていいことだってあるわ」
「山盛りにごはんよそって、ガツガツ食べるの。食べ終わったら、世界がちょっと変わって見えるの。ホントよ」
「ま、ようするに、みんなあれこれかかえて、けど、しっかりやってるってことよね」
「だれかが思い出すたび、死んだ人は、その人の心の中で生きかえる」
「あたし、人のいうこと、からだの中に全部いれないの。ひどい言葉は、聞こえなかった、って思うの。知らんぷりするのよ」

などなどです。きっと作者の人生観なのでしょう。こういう言葉が、悩みをかかえた読者の頭の中でひびけば、いろいろなことがもっと楽になるかもしれないなあと思います。