2013年1月1日火曜日

いとをかし!百人一首 天才・蝉丸がやってきた!

書名: いとをかし!百人一首 天才・蝉丸がやってきた!
著者名: 光丘真理
出版社: 集英社みらい文庫
好きな場所: 道のとちゅうには、竹で編んだ柵がもうけられ、木の柱を組んだ門がある。その両がわに、長い木刀を持った男が立っていて、通行する人たちに声をかけている。人々はなにか札のようなものを男たちに見せて、通りぬけてゆく。
所在ページ: p42
ひとこと:あけましておめでとうございます。

 新春第一弾にご紹介したい本は、すごくタイムリーな新刊、光丘真理さんの「いとをかし!百人一首 天才・蝉丸がやってきた!」です。
 百人一首クラブに入っている小学生スズとナリ先輩が「とき道」を通って、百人一首の作者が生きていた平安時代といったりきたりするお話「いとをかし!百人一首」シリーズの第三弾。
 今まではスズとナリが、むこうの世界に行くだけだったのですが、今回はなんと副題でわかるように「天才・蝉丸がやってきた」のでした。
 なぜそんなことに? とき道とはなに? そして定家じいちゃんはなにをしようとしているのか?そして蝉丸はこっちの世界のあれとあれにえらく感激していますがそれはなに?
 など今回もさすがのしかけで、どんどん読み進めてゆくことができます。それがこのシリーズ人気のわけの一つでしょう。それからきまり字のことや、かるたのとりかたなど、今の小学生にわかりやすい解説がさりげなく織り込まれています。

 とはいえ、かるた競技のお話なら他にもあるかもしれませんが、この本のすばらしいところは、それだけにとどまらず、この時代の和歌というものを鑑賞するために大事な点をちゃんともらさず、また理屈ではなく小学生にわかるように描いているところです。
 引用は、百人一首にも出てくる「逢坂の関」にスズとナリが行ったところです。
 ただの言葉ではなくて、そうか、逢坂の関とはこんなものなのか、と目にうかべることができるだけでどれだけそのあとのかるた競技が、国語学習が、そして人生が豊かになることでしょうか。
 またシリーズの前二巻では、小野小町、陽成院、紫式部、小式部内侍というような歌人に会っていますし、今回は場所や物や人だけではなく、さらにもっと抽象的な「無常」というのはなにかについても、ちゃんと蝉丸くんを通じて、イメージができるようになっています。無常がわかるというのは、とても難しいことだろうと思いますが、たとえ今わからなくても、「無常」ということばを聞くたびに、あああの蝉丸くんね、とおもうだけでどれだけ理解の助けになるでしょうか。
 結局のところわたしたちだって、学校で習うだけではなく、そういうイメージを親や祖母父や近所や親戚の大人の会話から自分なりに形成して文化というものを理解してきたのでした。

 今の子たちは諸事情で伝統から分断されているのでいきなり理解しろといっても難しいのですが、こういう本を楽しんで読むことで、きっと文化が継承されてゆくはずだと思うのです。