2012年4月23日月曜日

糸子の体重計

書名: 糸子の体重計
著者名:いとうみく
出版社: 童心社
好きな場所: 「あ、こんなとこにいた、高峯さん! 音楽おくれるよ」細川さんが、トイレの入口で二本のリコーダーと、二冊の音楽の教科書を頭の上にかざした。うちのぶん、もってきてくれたんだ。「ごめんね」……ありがとう。コックを閉めてトイレを飛び出した。「うんち?」
所在ページ: p152
ひとこと:ああ、ついに、ついに、いとうみくさんの本ができた!著者名のところに「いとうみく」と書いて なんだか泣きそうになる。

私が季節風に入れてもらったとき、この糸子の体重計の最終話「スマイル 滝島径介」が掲載されていたところでした。そのときはもう「糸子」シリーズは季節風では有名で「糸子はいい」「いとうみくはうまい」という評判ができていました。糸子シリーズが終わっても、掲載されるだけでも難しい季節風に、自らが幹事になってついに選ぶ側にまわるまで、連続で載り続けました。そんな人なのに、本にするのはこんなに大変なんだ。苦労された。それを思うとほんとうにうるうるです。よかったね、ほんとうによかったね。

季節風というところはふしぎなところで、どんな新入りでも、いいものを書きさえすればみんなが敬意を払う。名前より、経歴よりなにより、ああ、あの○○(作品)の人ね、という。あれはどうなったの?と聞く。私、あなたの○○が好きなんだけど。いや、私はあっちがいいのよと、いやあっちよとまじで論争する。本になんかなっちゃない、みんな生原稿の話です。

自分がすごいと思った作品の人が、自分の作品をおぼえていてくれる、会ったこともないのに。それがまた感激で、がんばろうと思うのです。私も、入ったばかりの新年会で、受付にいたいとうみくさんが、「ああ、森川さんね!(作品のこと)聞いてる」と言ってくださったのが、すごくうれしかった。わ、ぎゃあ、あのいとうみくだよー、という感じです。中野の魚民の廊下のとっつきです、忘れません。



さて、肝心のこの本のことですが、細川糸子は、5年生です。引用のように、友だちをトイレに迎えに来てくれたのはいいけど、うんち?なんて平気で聞いちゃう無神経な子。給食が楽しみで楽しみで、献立はチェックを欠かさず、保健室に行った男子、滝島のアイスをもう戻ってこないと思い込んで、同情も心配もせずちゃっかり食べちゃったりします。滝島にその代り白玉フルーツポンチをあげると約束させられて、そのことが腹が立って腹が立ってたまらない。そんな子です。みんなに無神経だとか、あっちへゆけと思われていて、本当だったらいじめられるかもしれないキャラ。でも、糸子がノーテンキに思うまま動くことで、それがまるで触媒のように作用して、それぞれに問題をかかえてぎすぎすしている他の4人の心がなぜかふっとちがう風に振れてゆくのです。そのさりげなさがまたとってもすてき。

きっとこれを読んだ小学生は、等身大の五人が動くこのお話によりそって、いろいろ考えるだろうし、自分の身にひきくらべるだろうし、そのことが、大人が説教しようが教えようがどうしようもないように思われる現代の複雑な問題を、自分たちで解決する力になるにちがいない。この本そのものが、まるでこの本の中の「糸子」のような触媒なんだと、思ったことでした。

たくさんの子に読まれることでしょう。読んでほしいな!