2011年5月3日火曜日

みらい文庫「坊っちゃん」

書名:坊っちゃん
著者:夏目漱石
構成:森川成美
絵:優
出版社:集英社
ISBN:978-4-08-321020-4
定価:599円(税込)

発刊されました。本屋さんに行き、買ってきました。ちょっとうるうる。
私は編集というか構成というか、現代化というかそれを担当させていただきました。

「坊っちゃん」はもともと言文一致の文章。
私は国文の専門の勉強はしていませんが、漱石の俳句に「妹が文候二十続きけり」なんて見たことはあります。候文で手紙書いていたんですね。漱石は英文学を教えてたけど、実は漢籍に造詣が深く漢詩もたくさん作っていたのに、小説には一切「也」も「哉」もなしに、ほんとしゃべっているような、時には落語のような語り口で書かれていて、当時は画期的だったに違いありません。
でも今はもうそれからずいぶんと時がたっています。
当時はだれでもすぐわかったはずの「蒟蒻版」「靴足袋」「天目(台)」「一閑張」なんて私だってわかんないし、今の子にしてみたら、四年生で十歳だとすると、十年前は赤ちゃんだったわけで、ひょっとすればおとうさんは三十前後、飲み屋ならともかく家で「とっくり」にお燗してお酒飲むことないだろうし(缶チューハイをプシュッ)、「蚊帳」なんてまず吊らないし(石膏ボードが落ちちゃう)、とにかく実感のない言葉と実感のない動作がずーっと続くわけで、たとえ漢字をかなにしてみても、読んでいて苦痛だろうと思います。
注をつけるという手もあるし、そういう試みが文学的に何度もなされていますけど、私は自分があまり語学が得意じゃないのに実務翻訳の仕事をしていたけれど、文章の途中でいちいち辞書を引くというのは本当に本当に苦痛で、でも仕事だから勘違い記憶違いがあってはならないから、確認せざるを得ずにやっていたので、これが読み物なら、わからない言葉でも絶対に引かないといつも思っていました。勉強のためならともかく、注を参照しながら読んでも、物語にはなかなか感情移入できないのです。
そこへ、みらい文庫さんの子ども本位にわかりやすくしたい、注はいらない、カッコ注も最小限、文章の中でわかるように、というコンセプトをうかがい、「うんうん、そーよそーなのよお!!!」と大きくうなずいて、わかる工夫をこころがけました。
といっても、蚊帳が出てくるシーンから蚊帳を削るわけにはゆきませんし、漱石の語り口をそこなうわけにはゆきません。また漱石は俳人でもあるわけですから、描写してあるその光景にはそれぞれ味わいがあるわけで、それをおいそれと壊すこともできません。
その一方で、もし自分が物語を書くならば、難しい言葉もつかってみたいし、文物も出してみたいのですが、この場合は原作があるわけですし、そういうことに違和感のない子ならば原作を読めばいいのです。そうではない、はじめて日本の文学を読んでみようかなと手をのばした子であったとしても、いやにならないで、ページをひっくりかえさないで、どんどん筋を追って読み進んで行ける、そういう本になったらいいのです。
そうやって、原稿を出したところ、大人の方にも「はじめて坊っちゃんを一気読みした」「坊っちゃんの感情が伝わってきた」「よくわかった」と言っていただき、ほっとしたことでした。
私もそんなでしたが、編集の方々の工夫はすごくて、たとえば巻末には「坊っちゃん事件簿」というのがあって、坊っちゃんの遭遇する困難(?)が順を追ってわかるようになっています。「※本編を読み終わってから見てね」となっていますから、ネタバレ注意ですが、でも読みにくい子は先に読んだって構わない気がします。筋がわかってもなおおもしろいという漱石の文学の力があります。また、解説は現代文の参考書でうちの子たちもお世話になった現代文のカリスマ出口汪さんが書かれています。
それより子どもさんがたを引き付けるだろうことは、絵がかわいい。最初カバーのブルーがすごい、坊っちゃんが上から飛び降りてくるアングルがすごいと思っていたところ、モノクロの絵もとってもすてき。いや、画像も実は見せていただいていたのですが、本になってみるとさらによくって、また大事なシーンがわかりやすく描かれていてて。

みらい文庫のHPではウミノ村の(?)シロタンが紹介してくださっています。うちの子に自慢しちゃおうっと。

http://miraibunko.jp/book/yomeba/book004/