2011年5月10日火曜日

日本児童文学2011年5-6月号

書名:日本児童文学2011年5-6月号
著者名:日本児童文学者協会
出版社:小峰書店
好きな場所:その時、ものすごい衝撃で味噌汁のお椀が顔にぶつかった。オレはそのまま真後ろにぶっ倒れ、気がついたら、顔中味噌汁まみれで、天井の蛍光灯を見上げていた。味噌汁は鼻からのどにも回り
所在ページ:10
ひとこと:開隆人さんの創作「ファザーズ」です。
 開さんは、そうえん社ホップステップキッズ!!シリーズに「メン!出会いの剣」「メン!試練の剣」というご本を書かれていますが、このメン!の主人公、剣道少女の久世ミクのお父さんは剣道家。そのスパルタの厳しさたるやもう半端じゃありません。ミクはそのお父さんの目をかいくぐり、お父さんに反抗し、お父さんと対決することになるのです。
 開さんはそういう親子関係を書かれたら本当にお上手な方。 今回も、三代にわたる父と息子の関係をリアルに追いながら、そこから抜けようと思っても抜けられないおかしみと、はらはらどきどきしながら、それをどこかさめた目で見守る女たちなどの家族の情景を描いておられます。さすがリアリズムの雄、高橋秀雄さんの直弟子さん。このあたり半端じゃありません。引用の箇所は、お椀をひっくりかえしたのではなく、殴られちゃったのでした。そしてその理由には、唖然。
 開さんは、みなさんご存知ないかもしれませんが、同人誌に書かれるシュールなファンタジーもおもしろくって、私はそっちもひそかにファンなのです。

 開さんも季節風の先輩ですが、今回発表になった第十回長編児童文学新人賞の佳作受賞者きむらともおさんも先輩。受賞作の「月とホットケーキ」は昨年の季節風大会のとき読ませていただいて、目がテンになったほどの意欲作。私は実は感想を差し上げなければならないならないと思っていたのですが、ほんとなんといっていいのかわからないぐらいのすごさで失礼申し上げていたのです。これが佳作になったということは、非常に画期的なことなんじゃないのだろうかと息を飲んだことでした。きむらさんは、海外の児童文学に精通しておられて、たくさんお読みになり、また評論も書かれている方で、このお作は、まさにカッティング・エッジという言葉がぴったりではないかと思います。新風を巻き起こしてくださることでしょう。おめでとうございます!