2017年3月25日土曜日

「大林くんへの手紙」せいのあつこ

書名:大林くんへの手紙
著者名:せいのあつこ
出版社:PHP研究所
好きな場所:文香ちゃんが座ってなかったら、荷物置き場にされてたかもしれないよ。ここ
所在ページ:p125
ひとこと:『ガラスの壁のむこうがわ』(国土社)でデビューを飾られたせいのあつこさんの二冊目の本です。
 小学六年の文香のクラスの大林くんという子が、突然学校に来なくなります。それで、クラス全員で手紙を書いて届けることになりますが、文香はいったん書いた手紙をひっこめて、ただ一行「いつかちゃんとした手紙を書きます。」とだけ書いて、ポストに入れます。それから文香は、何て書いたらいいのだろうかと考え始めるのですが。
 文香のしたことは、手紙でもメールでもなくて、大林くんの椅子に座り続けることでした。

 学校で書くお手紙は、しばしばもらう相手のためではなく、書く方の都合であったりするのですが、文香はそれに疑問を持つのです。しかし文香のすることは大林くんのためになることでもないのですが。ただそれをしたことで、一瞬文香にとっては、大林くんとつながった瞬間ができたのでした。

 季節風に連載されたお話をまとめられたものです。いわゆる児童文学の枠を超えて大人の文学にも通じるようなお話です。しかし、せいのさんは児童文学にこだわります。ご自分が子どもだったころのように、自分にぴったりくる物語を探している子がきっといるにちがいないと思うからです。このお話もきっとそんな子どもさんに届くことでしょう。そしてそうでない子どもさんがたも、日常あたりまえのことがあたりまえでないと思える瞬間に出会うかもしれません。それが文学の力と思います。

 ご上梓おめでとうございました。