2016年8月4日木曜日

「幽霊少年シャン」高橋うらら

書名: 幽霊少年シャン
著者名: 高橋うらら
出版社: 新日本出版社
好きな場所: 聞きたいことがあります。おばあさんは、山科サクラさんですね、通っていたのは、満州の新京にあった大文字小学校ではありませんか?
所在ページ: p160
ひとこと:埼玉の小学六年生、高野大地が寝ていると、夜中、太った人のよい顔をした少年が現れます。自分は幽霊だといい、リュウ・シャンという名前だといいました。そして、大地のことをおぼっちゃまと呼び、会いたかったといいます。そしてちょっと来てくれといって、どこかにつれて行きます。
 その場所は、新京大文字在満國民学校というところの教室でした。そこは日本が戦争中につくった満州という国で、大地は徳永大和という名前になっていました。シャンは大和の家で働く中国人の少年だったのです。
 シャンは大地のことを大和だと思っていて、大和が呼んだと言うのですが、大地には意味がわかりません。何度もシャンに呼ばれて昔の満州との間を行き来するうちに、満州の側ではソ連軍が攻めてきて、大和一家は列車で避難することになります。大和たちはシャンも乗せようとするのですが……。
 そして引用のように、山科サクラという人をみつけたことをきっかけに、なぜ大地が大和と思われたのか、だれが呼んだのかが、だんだん明らかになってゆきます。

 高橋うららさんは、ノンフィクションをたくさんお書きになっている作家さんですが、満州のこともノンフィクションで最初に書かれていたそうです。前に満州に取材に行ったともたしか伺ったことがあります。
 でもこれはファンタジー仕立てのフィクションです。
 今の子どもさんがたは、昔の話は難しくて入ってゆきづらいと聞いたことがあります。私ども児童文学で依頼していただく原稿はほとんど「現代の子どもを主人公にしてください」となっています。そうでなければ読まれにくいという事情があるのでしょう。
 前と違って核家族になり、思い出話などなかなか聞く機会がないことや、生活があまりに変わって、昔の用語や用具などがわかりづらいこともあるのだと思います。それは大人の本も同じで歴史物なども書くのは大変になってきていると思います。
 しかし一方、同人誌など拝見すると、実際に経験された方が、戦前のことを書かれたものも多く、とっても貴重でおもしろいお話が多いのですが、実際に経験しているとあまりに当たり前と思うことは説明することはないので、現代の子どもにわかりやすくという面はどうしても置いてきぼりになってしまう傾向があります。
 それをこの本では、ファンタジー仕立てにすることと、主人公の大地が現実の世界にもたびたび戻ってきて調べたり、聞いたりすることで、解決していると思いました。
 非常に映像的なお話なので、ドラマや映画にするとさらにわかりやすいと思います。

 歴史の評価はその時代が近いほどいろいろな説があると思いますが、だからといって実際にどんなことがあったかを知らないわけにはゆきません。それは、たとえばある現象を解釈する学説がAとBと分かれていて、口角泡を飛ばして議論している最中でも、その現象は存在しているということです。
 満州についてもだれが加害者か被害者かといういろいろな考えはあると思いますが、どういうところでどういう人たちがいたのかということは、伝えてゆかなければならないと思います。ぜひこの本を子どもさんがたが読んでくださいますように。