2016年7月25日月曜日

「坂の上の図書館」池田ゆみる

書名:坂の上の図書館
著者名:池田ゆみる
出版社:さ・え・ら書房
好きな場所:「おや、ぼくの本、読んでくれたんだね」
とつぜん、頭の上で声がした。
わたしも佐久間さんも、驚いて顔をあげた。
するとそこには、さっきまで舞台の上にいた五島一平さんが、飲み物の入った紙コップを手にして立っていた。
言葉をかけられて、ふたりともあわてて立ちあがった。
すぐ目の前に『大地のこどもたち』の作者がいて、わたしたちに話しかけてきたのだ。そう思うと、胸がドキドキして、わたしは言葉が出てこなかった。
所在ページ:p139
ひとこと:ももたろう同人で、鎌倉の腰越で画廊を経営しておられる池田ゆみるさんが、初めての本を出されました。
 おめでとうございます!!
 ももたろうは、『鬼ヶ島通信』という雑誌の公募に入選されて掲載された方だけが入会できる同人で、そもそも『鬼ヶ島通信』に掲載されるということが、非常にハードルの高いことから、ももたろうの水準もとっても高いと伺っています。
 池田さんはももたろうで創作の筆を磨かれる一方で、現代美術を中心とする画家さん、彫刻家さんなどを発見し後押しされる活動を続けてこられて、腰越に「湘南くじら館」という画廊を持っておられます。
 同じ態度は本についても貫かれていて、図書館司書をされていたこともあって、古今の名作を推される一方で、いつも新しい作品についてアンテナを張っておられ、いつも「これはとってもいいと思うの」と真剣に語られる方です。
 美術のソムリエであると共に、本のソムリエでもあるのだなと思っていました。
 その池田さんが初めて出された本は、まさにソムリエならではの内容で、さすがというか、そんな感じがします。

 主人公の春菜は小学五年生。おかあさんと二人で自立支援センター「あけぼの住宅」に引っ越してきました。いつまでいられるかわかりません。こんなところの世話になんかなりたくないというおかあさんといっしょに住むことになった、そのセンターの隣には、図書館がありました。その図書館で春菜はいろいろな本を借りて読むことになります。
 この本に登場する春菜が読んだ本は、まさにソムリエ池田さんのチョイスともいうべきもの。
 『たなばた』福音館書店、『あめふり』福音館書店、『ちいさいおうち』岩波書店、『エルマーのぼうけん』福音館書店、『やかまし村の子どもたち』岩波書店、『白い馬をさがせ』童話館出版、『長くつ下のピッピ』岩波書店、『あしながおじさん』福音館書店です。
 そして、春菜は読書リーダーになって、研修会に参加し、引用のように、『大地の子どもたち』の作者五島一平さんの話を聞くのでした。

 この五島一平さんの『大地の子どもたち』は、巻末の「この物語に登場する本」に挙げられていません。つまり実在の本ではないということです。でも、北海道を舞台とした自然の中でたくましく生きる一家の話といえば、たぶん後藤竜二さんの『天使で大地いっぱいだ』をモデルにしたものだと考えても不思議はない気がします。そして後藤竜二さんは、あちこちに講演会に行かれ、そして引用のように気さくに話しかけてくださる方でした。

 春菜は誕生日のプレゼントに『あしながおじさん』を頼み、そして図書館司書になるという夢を持ちます。大変な日常の中で本に助けられ育てられた春菜の将来が明るいことを、作者と共に、願ってやみません。