2016年2月26日金曜日

「黄砂にいどむ」高橋秀雄(新日本出版社)

書名:黄砂にいどむ
著者名:高橋秀雄
出版社:新日本出版社
好きな場所:一前さんたちはしばらくの間、「黄砂を抑える」ということを口にできませんでした。現地の人たちや中国の研究員の間には、黄砂が止まっても何の利益もない、それよりすぐれた品種の作物を導入して欲しいという思いが感じられたからです。
所在ページ:p94
ひとこと:季節風の事務局長で、リアリズムを書かせたら天下一品の高橋秀雄さんが、なんと、ノンフィクションに挑戦されました。うつのみや童話の会の縁で知り合われた、宇都宮大学名誉教授、農学博士の一前宜正さんに何度も丁寧に取材をされた結果です。ノンフィクションは、題材の選び方はもちろん、取材先との人間関係がとても大事と聞きます。高橋さんは、そのお人柄を活かして何度も一前さんのところに通われ、この本をまとめられたのだと思いました。さすがいらっしゃいます!

黄砂というのは、最近こそPMなんとかで問題になっていてよく取り上げられているのですが、私の育った九州では、昔から季節にやってくるしかたないやっかいものという感じで受け止めていました。ひどい日は、空が黄色くなり、まっすぐ歩くと目が痛くなります。学校は窓を閉め切りにしますが、それでもどこからかふしぎと砂が入ってきて床や机に積もり、そうじが大変です。先生方は「これはな、中国から来るんだぞ」と言っていました。へーっとおどろいたものです。どこでもそうだったのかとおもいきや、前に俳句教室で「教室こそわが青春や黄砂積む」という句を作ったけれど(黄砂は春の季語)、意味わかんない、とけっこう不評でした(笑)。そうか黄砂が飛んでこない、黄砂が肌感覚でない地方もあるんだと、こっちもびっくりです。

とはいえ、迷惑ものだとしても、特に有害物質を運んでいたわけでもなかった時代、雪や嵐や火山の降灰と同じ種類のもので、いやだけどしかたない、がまんしてそうじするしかない、という感じでした。

しかし、それを押さえる方法を研究されておられた学者さんがおられたなんて! すごい、すばらしいの語に尽きます。

一前さんたちの研究チームは、引用のようにまずすぐに作物がとれる研究をしてくださいという要請をはねのけ、黄土地帯を緑化する方法を模索しはじめます。障害になるのは、羊の放牧だったり、オンドルの燃料だったりします。でも一前さんたちは、日本であったら除草剤の対象となる「雑草」に注目したのです……。

あとは、読んでください。

私も十年ほど前、西安に行ったことがあります。そこで驚いたのは、どんな葉っぱもみんな土が積もって茶色くなっていることでした。昔覚えた漢詩「渭城朝雨潤輕塵 客舎青青柳色新」というのが、ああ、ここでは雨が降るということは、葉っぱが緑になるってことなんだな、と思ったことでした。何千年もずっと不毛の地であった黄土地帯が緑化される、すばらしいことだと思います。ぜひぜひ、このプロジェクトが進んでほしいと思います。