2015年11月25日水曜日

「車夫」いとうみく 小峰書店

書名:車夫
著者名:いとうみく
出版社:小峰書店
好きな場所:「お節介な」
「かもしれないんですけど、でも親切とお節介は紙一重じゃないですか。そんな線引きしてたらなんにもできないから、まず動けって」
所在ページ:P214
ひとこと:いとうみくさんの新刊『車夫』です。
 とんでもない目にあった17歳の吉瀬走。高校もやめ、当然陸上部もやめ、一人で生きてゆかなければなりません。同じくわけありの部活の先輩に教えてもらったのが、浅草で観光客を乗せて人力車を引く、車夫という仕事でした。若い親方は、結婚したばかりです。イケメンの若者ばかり集めて、人力車をひかせていますが、みんな重労働のうえに食べ盛りで、お肉を買うのもキロ単位。車屋の経営もなかなか大変です。でも親方のポリシーは、引用のように、まず動け、なのです。そのポリシーに支えられた車屋で、過去をひきずっているその妻も、若い走も、わけありの先輩も、道を外しかけた男も、いつのまにか「だれかの笑顔」になるようにと前を向いて走っているのでした。

 みくさんの『糸子の体重計』は、給食大好きな糸子を中心に小学校の子どもたちを描いた短編集でしたが、今度は、17歳の走と車屋の若者たちのお話です。走って記録を出すことに明け暮れた学生だったのに、今は走ることが仕事になっています。みかけはさわやかなイケメンですが、実はみんな現代社会のひずみから、溝にはまってしまいそうになった人たちばかりでした。だけど、いとうみくさんの筆はさわやかです。糸子が触媒になって子どもたちがいろいろなことを克服していったように、ここでは親方が隠れたキーマンとなって、みんなを変えてゆくように思われます。