2015年11月13日金曜日

「しゅるしゅるぱん」おおぎやなぎちか 

書名:しゅるしゅるぱん
著者名:おおぎやなぎちか
出版社:福音館書店
好きな場所:
「あの子がいったのですね」
「んでね、おらがといつめだんだ」
所在ページ:P136
ひとこと:どう考えても私はここが一番好きです。最初のセリフは三枝面妖という男性もの、次のセリフは妙という女性のものですけれど、ここにこの二人の愛が現れているような気がするからです。そして実はこれがこの物語の根源なのでした。
あとは、ネタバレになりましょうから、言いません。

季節風の仲間のおおぎやなぎちかさんの初出版のご本です。おめでとうございます!!

2009年の児童文学ファンタジー大賞の佳作受賞作品を、改稿されたものです。

おおぎやなぎさんは、俳句のほうでもカルチャー教室を任されるほどの方で、歳時記にもたくさん句が採られています。

このお話も俳句と同じように、岩手県の自然や土地の生活、風習、言葉にできない雰囲気、空気、魑魅魍魎やその他不思議な概念を描いています。もう一つ、地方の町に継続して暮らす親子四代のつながりもあるように思います。おおぎなやなぎさんのこれは俳句ではなくて短歌に「祖母の手と違う母の手母の手と違う我の手娘の手を曳く手」というのがありますけれど(これも賞をとられたものです)、私は、読みながらそのことを思いだしました。

小学五年生の解人は、パパの仕事のつごうで岩手県の朱瑠町にあるおばあちゃんの家に引っ越してきます。そこは、パパの郷里で、パパの親戚や子ども時代の友人がいて、パパが通っていた小学校に通うことになります。解人はこの地方に、なにかものがなくなったとき「しゅるしゅるぱん」とつぶやく風習があることを知ります。ところが、解人の前に男の子が現れ、自分はしゅるしゅるぱんであると言うのです。しゅるしゅるぱんというのは、人の名前ではなかったはずなのですが……というお話です。

装丁もすてきで、カバーは白が基調ですが、本体は桜色。帯も半透明でおしゃれです。扉の裏に英題がちゃんと書いてあって、それが「A boy who might be」というのですが、まさに、と思いました。

絵は、岩手県のご出身で、仙台在住の画家、古山拓さんです。表紙のみごとな蔵や、時計や神社、そして桜の木のカットが、東北の空気を伝えています。