2015年7月2日木曜日

「あきらめないことにしたの」堀米薫

書名:あきらめないことにしたの
著者名:堀米薫
出版社:新日本出版社
好きな場所:「今、どうしてるの?」
「どうしてって……、何もすることなくなっちゃったよ。避難するまでは漬け物を作ったりしていたのにね」
「私、福島でもう一度加工の仕事をしたいと思っているんだけど、どう思う?」
 所在ページ:p87
 ひとこと:福島の飯館村は、福島市にほど近い山中の村です。
 福島はだいたい縦に浜通り、中通り、会津と、三つの地域に分けて場所を言うのが天気予報などでも慣例です。飯館村は浜通りに属しますけれど、海岸に面しているわけではありません。
 なので、東日本大震災も確かに大変ではありましたが、津波など壊滅的な被害はなかった場所です。しかし、風向きの影響で、放射性物質が流れこんできて、線量が上がってしまいました。そして、計画的避難区域に指定されて、一か月以内に転出することを余儀なくされてしまいました。
 飯舘村の農家のお嫁さん、渡邊とみ子さんはもともと、村でじゃがいもやかぼちゃの品種改良に携わったり、その産物を販売するために加工場を作ったりすることに熱心な人でした。
 避難した後は、茨城県の農家で働いていましたが、福島に戻ってきます。みんなで開発してきたじゃがいもの作付が気になっていたからでした。しかし、飯館は線量がまだ高く、作付はできません。 あきらめないと決めたとみ子さんは、福島市内に休耕田を借りて、作付を始めます。
 そうしているうちに、仮設住宅に暮らす、お嫁さん仲間に会います。引用のように、みんなすることがなくて元気をなくしていました。
 とみ子さんは閉店したドライブインを借ります。そして、福島大学の行政政策学類の先生や学生たちといっしょに食品加工と販売などを行うプロジェクトを立ち上げたのです。

 作者の堀米薫さんは、ご自身も福島出身の農家のお嫁さんです。宮城県にお住まいですが、やはり震災や放射性物質の影響でご苦労されてきました。その堀米さんが描く、震災と福島と農家のノンフィクションです。きっと書きたくて書きたくていらっしゃったんだろうなと思います。
 そして、この本は震災の記録だけにとどまらず、人間があきらめないで前に進んで行くには何が必要かということも、示していると思います

 渡邊とみ子さんの携わっておられる「かーちゃんの力・プロジェクト」は福島市内に店を出しておられて、私はたまたま開店の日に通りがかって入ったことがありました。最近は、駅の構内にも店が出ていて、お弁当や加工食品、手工芸品などを売っています。このご本もそのお店に置かれることになるのでしょうか。今度ぜひ見に行きたいと思います。