2014年12月13日土曜日

「カッチン」いずみたかひろ

書名:カッチン
著者名: いずみたかひろ
出版社: 小峰書店
好きな場所:そのときカッチンの足下の瓦礫がグラッと大きく動いた。手裏剣は手元が狂って、とんでもない方向へとんだ。
所在ページ: p78
ひとこと:ばやしの方のご出版が続いていますが、これはばやしの同人でもあり『日本児童文学』の編集長でもいらっしゃるいずみたかひろさんのご本です。

 1959年神戸のお話です。戦争が終わって十五年ほど。大空襲にあった神戸の街には、がれきが残っていて、五年生のカッチンを含む少年たちは、そこで遊んだり、たまにはくず鉄ひろいなどをしたりもしていますが、戦後すぐのような殺伐たる風景ではありません。どこかのんびりしていて、大人も筋はぴしっとしていても芯はあたたかく、しかし、いろいろな人がいるのです。

 シスターボーイと近所ではちょっとばかにされているバーテンダー、だるま船を住居にしている同級生、その子の変わったおねえさん、本当は朝鮮人なんだ、北朝鮮に帰るんだと言いに来た同級生、などなどが登場します。その一人一人を見る作者の視線はとっても暖かいのです。

 たぶん、作者のお人柄によるものだとわたしは思います。いずみさんはすごいダジャレを繰り出してくる方で、もうお目にかかったら、お話をするというよりそのダジャレにつっこむのに蛍光灯のこちらはせいいっぱいなんですけど。作品の要素には、テーマや、文章や、テイストや、いろいろありますでしょうが、そのへんはもともと文学畑ではない私には、最終的にはどう考えていいのかよくわからないのですが、あくまで私の場合、その本が読みたいとおもうかどうか、というのは、(その本の中に表れる)作者の人柄にかかってくると思う今日このごろです。


 蛇足ですが、最近ダウンロードで見た『お姉さんといっしょ』という1956年のベネチア映画祭で賞をとった白黒映画を思いだしました。こちらは東京のお話ですが、とてもすてきな映画です。子どもが子どもらしくあった時代かもしれません。映画はこちらです。
 http://www.sakuraeiga.com/catalogue/2008/12/17_11_06.html