2014年6月30日月曜日

書名: 虜人日記
著者名: 小松真一
出版社: ちくま学芸文庫
好きな場所: 山の生活で人情味をすっかり失った者が捕虜になり、多少常人に返りかかったのが、また逆にもどってしまった。人の食物を盗んだり、かくれ食いなど、盛んに行われた。収容所内の草原で、バッタ、蛙を捕え食べる者もあった。
所在ページ: P192
ひとこと:せんだってこのブログでもご紹介した語りつぎお話絵本「せんそうってなんだったの?」シリーズ12話『父ののこした絵日記』(ささきあり 学研教育出版)のその「父」で絵日記の作者、小松真一さんの残された文章です。私はこの方のことを知らず、このささきありさんのご本で知り、読んでみようと思いました。


 作者の小松さんは、醸造を専門とする技術者で、さとうきびの汁からブタノールを製造する工場のたちあげのために台湾の製糖会社におられましたが、フィリピンで同様にブタノールを作る工場を設立するようにと言われて、フィリピンに向かいます。その工場は軍の直営工場で、ブタノールは自動車の燃料にするためでした。
 しかし、アメリカ軍が上陸してきたため、軍属となっていた小松さんは、部隊と共に山に隠れ、山中を転々とします。そして投降して捕虜となり、戦犯の嫌疑をかけられ、抑留されるのですが、その間、いろいろなものを駆使して絵日記を残されます。それがこの本です。

 いやあ、おもしろかったです。陰惨な話が陰惨ではないのは、この方がひたすら科学者として科学の目、ときには哲学の目で人間をみておられたからだと思います。淡々とつづられる描写が、非常に明晰です。人が余裕のあるときは人間性を保っていても、余裕がなくなればそれを失うさまが、山の中、収容所の中とくりかえし観察されています。そんな中でも、組織を成立させているのは、組織そのものではなく個人の人格だ、という結論も非常にうなずける気がしてきます。

 同様にスケッチをもち帰られた水木しげる『ラバウル戦記』(ちくま文庫)も違う意味で圧巻ですし、事実を当事者がそのときに記録したものは大変貴重だと思います。