2014年6月13日金曜日

『あしたも、さんかく』安田夏菜著 講談社

書名:あしたも、さんかく
著者名: 安田夏菜
出版社: 講談社
好きな場所: じいちゃんは、バツとちがう。さんかくや
所在ページ: P182
ひとこと:
季節風の先輩、安田夏菜さんのこちらは、高学年向きのリアリズムで、講談社児童文学新人賞の第一席をとられたお作です。

落語には、江戸の落語と上方の落語があることはだれもが知っていると思いますが、その違いとなるとなかなか知られていないのではと思います。演目は、同じことも多く、このご本にも出てきますが、江戸の落語で『頭山』は、上方では『さくらんぼ』として演じられているそうです。話が同じでどこがちがうのだといえば、形としては演台を使うか使わないか、ということもありますし、江戸が(もちろん人情もありますが)洒脱ということにけっこう重きをおいているように思えるのに対して、上方はやっぱり人情が最優先に思えることとかですが、でもいちばんちがうのは登場人物のキャラクターではないかと、私は思います。まあ道徳的にはちょっとどうかと思われるような破天荒な生き方を、それもありじゃないかと肯定する、これは現代のタレントに対する扱いとかでも、正義一辺倒じゃない、関西はそうですね。

このご本もそうで、ぼくのおじいちゃん、決していいおじいちゃんじゃない。はっきりいえば、メイワクな人です。でも、ぼくは、引用のように、そのおじいちゃんの中に、人間を見ます。つまりこのご本は、ほんとうに上方落語そのものの精神でてきているのです。

安田さんは、実は上方落語の台本募集で入選されて、そのホンが口演されたこともあるいう方で、つまり、この作者さんはなんと児童文学をお書きになるだけでなくて、落語の台本が書ける方だというのもうなずけます。最後、ぼくはおじいちゃんの台本を書き換えますけれども、その書き換えた台本が演じられるのをみているときのどきどき感、ほんとうに体験されたのでしょう、とってもリアルです。

人情のいい味というのは、元の師匠の遊遊亭光楽さんに現れています。ほんとそのまったりした大阪弁もすばらしいです。実話じゃないとわかっているのに、ほんとうにこの方がいてしゃべっておられるように聞こえます、なんというリアリズムの筆!! そしてその内容は、文学のすそ野にいる私にもうんうんそうだとうなずける中身です。それがなんだったのか、おじいちゃんの失敗につながるそれは、人生にも言えること、ネタバレになるので書けないのが残念です。


こういう多面性のあるお話は、作者がお若くてはかけないと思います。安田さんもお子さんを育てられて、いろいろ経験されて、そして落語にであわれて、台本をお書きになってというその人生そのものが、熟成されてこのお話に結実されたのだと思いました。

私ももっと早くから書き始めていたらたくさん書けてよかったのにとあせることがありますが、こういうものを拝読すると、いえいえいいんだ、と思えて、勇気が出ました。