2014年3月6日木曜日

「おかえり! アンジー」高橋うらら 集英社みらい文庫

書名: おかえり!アンジー
著者名: 高橋うらら
出版社: 集英社みらい文庫
好きな場所: ぼくは、キャバレー、なんかじゃない! どうして、お父さんやお母さんたちに会えないの? 正章くんやあか李ちゃんは、いったい、どこにいるの? 早くむかえにきて!
所在ページ:p158
ひとこと:『犬たちがくれた音』(金の星社)、『ありがとうチョビ』(くもん出版)など、動物に関するノンフィクションの著作のたくさんある高橋うららさんが、はじめて文庫に書き下ろした本です。
 おそらくみらい文庫にもはじめてのノンフィクション書き下ろしではないかと思います。

 引用の独白は表題・表紙の犬アンジーのものです。
 アンジーは、なみえ焼きそばで有名な福島県の浪江町に住んでいた、ある一家、佐藤家に飼われていた犬でした。
 震災の日、佐藤家は津波を逃れますが、第一原発から8.3キロの場所にあるため、最初は避難所に、次は福島市の親戚の家に避難を余儀なくされます。
 猫はからくも連れてきましたが、アンジーを含め三匹の犬は、浪江に置いてこざるを得ませんでした。おとうさんとおかあさんは、「自己責任」で被爆を覚悟して、福島市からせっせと水と餌をやりに通いますが、ついに浪江は警戒区域に入り、立ち入ることができなくなりました。
 一方、イギリス人のオリバーさんを代表とする動物保護団体アークは、震災の影響を受けた動物たちを憂慮し、関西が拠点であるにもかかわらず、被災ペットの救援に乗り出していました。アークには阪神淡路大震災で活躍した経験がありましたが、そのときのことを知っているスタッフはもうオリバーさんだけになっています……

 
 佐藤家、アークの両方の立場から、話が進み、ついにアンジーを焦点に結ばれてゆくてぎわは、ノンフィクションの名手高橋うららさんだからできるとしかいいようがありません。
 佐藤家とアンジーたちの運命を追いかけることで、突然思いもよらず原発事故に巻き込まれた土地の人々の気持ちをなぞることができ、いわゆる避難所→仮設住宅という典型的なパターン以外の被災者の事情を知ることができることでしょう。
 そのうえこれは『ありがとうチョビ』で高橋うららさんが描かれたアーク(Animal Refuge Kansai)の活動の物語に対しては続編でもあります。
 
 原発事故の被害を受けた土地を描いた本としても、動物愛護を描いた本としても長く読み継がれてゆくことと思います。