2013年10月12日土曜日

「がむしゃら落語」赤羽じゅんこ

書名: がむしゃら落語
著者名: 赤羽じゅんこ
出版社: 福音館書店
好きな場所: 落語がうまくいかないのを、教えかたのせいにしたり、ネタのせいにしたり……そんなやつを相手にしてるほど、ひまじゃねえんだ
所在ページ: P147
ひとこと:Be子どもと本の会でお世話になっている赤羽さんの新作です。落語がお好きということで、主人公が落語にチャレンジするお話に果敢に向き合われました。自分を省みても、それから読ませていただいた他のかたのお原稿にしても、自分の趣味など思い入れの深いものを主題に持ってくると、どんなに筆の立つ方でもなぜこんなになっちゃうのー???というほどうまくゆかないことが多いのですが、さすが私などもちろん及びもつかないキャリアをお持ちの赤羽さん、みごとに料理されました。実は三年ほど前、Beの関係でミニ勉強会をしたときに読ませていただいたことがある物語なのですが、それとも違ってぐっとグレードアップされて、その改稿のしかたにも本当に勉強させていただきました。

 
 特にすばらしいのは、やはり主人公をめぐる人間関係。子どもが大人の世界に入りこむという設定なわけですが、その主人公に真剣にかかってくる大人が、冗談のままに暮らしているようでそれぞれ真剣に生きています。そして引用のような言葉を吐くわけです。
 この言葉の主は笑八という売れない落語家。アドバイスも「出てくるやつになりきれ」のワンパターン。どこか主人公も小馬鹿にした気持ちがなきにしもあらずだったのか、つい本音ではないにしてもしゃべったことばで笑八を傷つけてしまいます。ですが、最後、一番大事な筋を通したのは、笑八だったのでした。
 あと、落語に対するいろいろな考え方の違いも織り込まれています。新作がいいのか、オリジナルがいいのか、伝統を守るべきかなどなど。私は社会科学の勉強をした人間なので、こういう考え方の違いがないと恐ろしいという感覚が身についています。物語でも、こういうものがないと非常に一面的にどうしても感じてしまいます。しかし織り込むのはなかなか難しい、持ちだした以上は展開しなければならないので半端にはゆかず、うまくやらないと物語が拡散してしまうからです。それについてもさすがのお作と勉強させていただきました。

 ところで、笑八の「なりきれ」というのは、落語でも、そして芝居でもそうでしょうが、物語を書くうえでも大事で、私も先輩方に何度も言われましたし、気がつけば自分もワンパターンのように言っています。でもアドバイスはワンパターンでもいいってことね。