2013年3月21日木曜日

クマに森を返そうよ 沢田俊子

書名:クマに森を返そうよ
著者名: 沢田俊子
出版社: 汐文社
好きな場所: 木を切らなくてもできる簡単な間伐方法も教わりました。皮むき間伐です。立ち木の胸の高さぐらいの位置に、のこぎりでぐるりと切れ目を入れて、木の皮をむくのです。六月ごろ、切れ目からへらを入れて浮き上がった皮をひっぱると、簡単に木の皮がむけます。
所在ページ: P95
ひとこと:最近、熊が民家の近くに出没し、地方では大変なことになっているという話を聞きました。熊だけではなくイノシシや猿などもです。熊イノシシ戦争というものさえあるとか。
 ところでからすだって本来は「からすは山に」と山のものだったはずですがだんだん都市に住みつくようになったのですから、都市に魅力があるかぎり、人が自然に切り込んでいくかぎり、しかたないのかもしれない。カラスの問題はゴミ問題といわれて久しいですし、いろいろ措置はなされていますが、なかなかむずかしいのが現実です。
 熊のこともそうなのでしょうか。

 本書は、熊と森と人を守る活動をしている「日本熊森協会」にていねいな取材をして、熊の性質、熊が森に住めなくなったわけ、熊を戻すために森を再生する方法、などなどを直観に訴えてわかりやすく説いています。
 アイヌの少年と熊のエピソード、母熊を殺された子熊を育てた理科の先生のエピソードなど、興味ぶかいおもしろいお話が満載です。なかで私がいちばんおどろいたのは、引用の部分、間伐の方法です。こんな方法があるなどとは知りませんでした。
 せんだってこちらで紹介した堀米薫さんの「林業少年」(新日本出版)に詳しいのですが、なぜ森が放置され、間伐されるべきものがされずにいるかといえば、要するに林業に採算があわないからです。
 では簡単な間伐方法はないのか、というのがこの皮むき間伐だということです。
 皮に切れ目を入れるということは、樹木の導管を断ち切って、養分をゆかなくさせる、立ち枯れさせるということです。しかし本来間伐すべき木を枯らしたからといって悪いわけではないと本書はいいます。そのぶん葉が落ちて光が入り、下草が育ち、森が本来の姿にもどると。そしてそういう森は、熊のえさを確保し、森に返すことにつながるのだと。

 どんな方法も万能ではなくメリットとデメリットがあります。私は林業は詳しくないのですが、森林の問題は、動物の問題であり、保水の問題でもあり、防災の問題でもあります。立ち枯れさせることはそこに立ち入る人にとって危険でないのか、それとも間伐しないいわゆる「もやし」のようになった放置人工林のほうがよほど危険なのか、いずれにしても、スギ花粉だけの問題ではなく、われわれの国土の管理の方針の問題としてみんながちゃんと議論すべき時なのだなあと思いました。