2013年2月22日金曜日

「林業少年」堀米薫

書名:林業少年
著者名: 堀米薫
出版社: 新日本出版社
好きな場所: 「今から客だ。相対だぞ!」
「ほう、相対かい!」
 とたんにまるで電流でも通り抜けたように、ヤエの顔がパッと輝いた。
 喜樹は、何事かと体を起こした。
「何? お客さん来るの?」
「ああ、そうだよ。本当にひさしぶりだよ」
所在ページ: p35
ひとこと:季節風の先輩、堀米薫さんの新作「林業少年」です。
 山もちの家、林業を営む農家ならぬ「林家」の長男、喜樹と、姉の楓。おばあちゃんは嫁ですが、おかあさんは家つき娘です。おとうさんは役場に勤めています。さて、ここで誰が林業を継ぐのか、騒動がもちあがります、というのも……。
 私が最初に参加させていただいた季節風大会で、故・後藤竜二さんが司会されていた物語分科会の推薦作となったお作品です。あれから三年ですか、ご本になって、しかも後藤さんのヒカル!シリーズにも絵をかかれた売れっ子スカイエマさんの表紙、挿絵で、かっこよく世に現れた喜樹ちゃんと楓ちゃん、きっとこのご本で「林業やりたい」と手をあげる少年少女がでてくることでしょう。

 
 という筋とは違いますが、私はお原稿で読ませていただいたときから、この「相対(あいたい)」のシーンが好きでした。市場価格を用いるのではない、お互いが納得して交渉で決める価格。上げるも下げるも納得ずくでなければなりません。そのためには互いが互いを尊重しなければならないのです。


 この本とは関係がありませんが、10年ほど前、私が中国に個人旅行したとき、今ほど中国は開放されていなかったのですが、どこに行っても、博物館のミュージアムショップにある図録すら、価格を交渉しなければ買えないことがわかって、びっくりしました。それで最初は言いなりに買ってぼられて落ち込んでいましたが、こっちもお金がそんなにあるわけでなし、そういってもいられないので、旅行者なりの無手勝流ながら低く言いだしてだんだん上げるというやりかたを覚えました。そうやると不思議なことに相手はいやがるどころか、まさに顔を「パッと輝」かせたのです。「よし、そう来るか」という感じです。そして、電卓を片手に、むこうはだんだん下げる、こっちは上げる、そして諾成したときの「敵ながらあっぱれ」と満面の笑み、わかった持ってってよと。ぼる、ぼられるではない対等の関係がここにありました。もちろん大きな取引でなく、小さな(私が買ったのは干した貝柱とかそんなもの 爆)取引まで、こんなに毎回交渉していては、事業計画も予算も立たないし、非効率です。だからこんなことは企業間の大口取引なんかでなければ、もうすたれる運命にあるのでしょうが、でも人ってふしぎ、満足感は利益にかかわらないんだと思ったのでした。個人的にはそんな思い出のある「相対」です。