2012年11月26日月曜日

「ドラゴンのなみだ」佐々木ひとみ 学研教育出版

書名:ドラゴンのなみだ
著者名: 佐々木ひとみ
出版社: 学研教育出版
好きな場所: じつはな、黒森の鳥追い祭りは、ずっと前にとだえていたんだ。それを今から六年前に、おれと雄一郎とで復活させたんだ。
所在ページ:p23
ひとこと:季節風の先輩で、「新・童話の海」で第一回目に選ばれて出版された「ぼくとあいつのラストラン」が同時に第二十回椋鳩十児童文学賞を受賞されたという、佐々木ひとみさんの新作です。

 引用は実はもっといい箇所があるのですが、ネタばれになるので自粛しました。これは主人公歩くんのおじいちゃんのセリフです。
 ママの出産でおじいちゃんちに預けられた歩は、ドラゴンに会うのですが、そのドラゴンというのは……というお話です。さあ、ドラゴンとはなんでしょうか。歩は困った末に本をひろげてドラゴンのならし方を研究するのですが、そのならし方こそ、人生でとても大事なことだったのです。
 プロローグの黒森の描写とその絵がすてきです。
 ちなみに絵は、かの宮部みゆきさんの「悪い本」の絵を描かれた吉田尚令さんです。絵本ではありませんが、黒森もどんど焼もカラーページで、「悪い本」同様おさえたトーンに色調を微妙に変えながら重なる色がとても美しくて印象的です。

 
 ところで、おじいちゃんが友だちと復活させた鳥追い祭りは、この物語のもうひとつの主役といってもいいぐらいです。
 市町村再編で従来の村や町や郡の名がどこかへふきとんでしまうような時代の中、伝統の祭りの復活ということが意識されているのでしょうか。私も実家に戻った時に、知らない祭りをやっていてねぶたのようなものが町を練り歩いていてびっくりしました。タクシーの運転手さんが、これは昔の祭りを復活させたんだと説明してくれました。
 先日ある場所に行った時も、戦前あった屋台のぶつかりあいを再生したんだという話を聞いたばかりです。きっと若いときに乗っていただろうというような白髪の方が、屋台の屋根に乗って両手放しで神社に入ってこられて、こうやるんだぞー、おまえたちよく見ておけよー、というような迫力が体からあふれていて、魅せられました。
 きっとこの歩くんのおじいちゃんもお友だちもそんな方だと読みながら思ったのでした。
 そういう意味で作者の故郷に対する愛にあふれた本ともいえます。