2012年7月27日金曜日

「たまご先生」佐々木智子 かもがわ出版

書名: たまご先生
著者名: 佐々木智子
出版社: かもがわ出版
好きな場所: 「あんたが、たまご先生かいな」
いきなり声をかけて近寄ってきた。
「そ、そうですけど」
「わし、しずかの母親ねんけど、この子、もの言わんかったのに言いだしよってん。ことあるごとにたまご先生が出てくんねん。ほんで、絵もな、やさしそうな若い女の人と、小さい女の子の絵を、何枚も何枚も描きよんねん」
所在ページ: p159
ひとこと:「たまごせんせい」ではなく「たまごせんせ」と読むのが正解だと思いました。子どもを関西の保育所に入れたことのある私には、文字からとってもなつかしいイントネーションが聞こえてくる気がします。本当に、あのころ赤ん坊と小さな子をかかえてがむしゃらに育児と仕事をしていた私は、先生がたに本当にお世話になりました。お世話になった母親の気持ち。預けたけれど日中、幸せにくらしていてほしいと願い、どう暮らしているかを家に戻った子どもの変化から感じ取る。それはまさにこのしずかちゃんのおかあさんの気持ちです。それを思うと、このくだりは真に迫って涙が出そうです。

作者の佐々木さんは、18年間保育にたずさわれたのち、9年間保育専門学校で教えられた方だそうです。
主人公のたまご先生こと小森菜穂は、保育専門学校の一年生で、二週間、実習のために保育所のゾウ組に来ます。でも、菜穂にはこの道を進むにあたって自分の母親との葛藤があります。それから好き嫌いもあって特にカシワ(鶏)の皮は食べられません。子どもたちはちゃんと菜穂が残しているのを見ています。そして、子どもが給食を残すのを許すか許さないかで、確固たる信念を持つ男の保育士、小野寺先生と論争になり……。
と、本当に保育現場の実際に迫る生の先生と子どもたちが描かれています。個々の事例、子どもたちの天真爛漫なセリフを含めてさすがだと思いました。

保育士になりたいが向いているだろうか、保育専門学校に行こうかどうしようか、そう考えている高校生、それからお仕事体験で保育所(園)に行こうとしている中学生がこれを読んだら、ずいぶんと理解が深まるだろうなあと思います。