2012年4月22日日曜日

おはなしの森

書名: おはなしの森
著者名: 「おはなしの森」の会編
出版社:神戸新聞総合出版センター
好きな場所: いやいや、そうじゃないんだよ、おとうさん。おかあさんは、おとうさんのこうぶつのハチミツ豆を、火にかけているところだった。ことこととにていえる豆をこがさないように、いそいでナベのそばにもどっただけさ。クマオくんには、やくそくがあったんだ。友達のクマコちゃんに、せきによくきくキンカンの実をわけてもらう、やくそくがね。
所在ページ: p26
ひとこと:2004年から神戸新聞の子育て欄「すくすく」に毎月一話づつ掲載されたお話のうち、20篇を一冊にまとめた短編集です。よりすぐりだけに、いいお話がたくさん。

引用は森くま堂さんの「クマ町」です。
森くま堂さんは、私と同じ季節風の同人で、とっても筆の立つかた。「んの反乱」という、大会の推薦作になって季節風に掲載されたお話は、私どもの語り草になっているぐらいです。
今回のこのお話は、森くま堂さんが(私も)まだ同人でないころのお作だそうですけど、この筆の運びは今も同じ。
クマオくんのおとうさんは、かぜをひいて寝ていますが、もうだいぶよくなったのに、「あんまりよくない」とつぶやいて、クマオくんとおかあさんにそばにいてほしいようすです。でも引用のようなわけで、一人残されてしまいます。で……。あとは読んでのお楽しみですが、こんなふうに地の文にこめられているなんともいえない人情の機微が、森くま堂さんの特色です。

実は、昨日この季節風の春の研究会があって、そこではマンガを取り上げて、いろいろな角度から発表されました。その中に、マンガを文章にしたら、という後藤耕さんという方のとっても興味深いレポートがあって、そこでは地の文の余白という点をとりあげておられました。それで、研究会のほうでは地の文が短いと余白があるのか、長くても余白ということもあるのでは、などとも話が進んだのですが(ちなみにこれらのレポートは季節風の来号に載りますが)、それはそれとして、地の文には、こういう風な機微や哲学を込めるという役割もあるのではないのだろうか、と私は思っています。森くま堂さんは、とにかくそれがとってもうまい。

ところで児童文芸家協会もかかわりの深いキッズエクスプレス創作童話コンテストというのがあるのですが、そこで木下財団賞をとられたことのある白矢三恵さんも、本書に「まいごのネズミ」というお話をのせておられます。
まいごになったネズミが、おまわりさんになって12年目のやすおさんのところに来ます。やすおさんは、いろいろ聞き取りをするのですが、あれ?あれ?という偶然の附合が……。これも読んでのお楽しみです。
ところで、そのネズミの名前はチューキチなのですが、おとうさんの名前が爆笑です。ほんとよく思いつくなあ!!