2011年10月21日金曜日

「ふらここ」29号

「ふらここ」はうつのみや童話の会の同人誌です。うつのみや童話の会は、日本児童文学者協会賞を受賞された高橋秀雄先生が指導されている会(ご自分では「親方」とおっしゃっておられますが)で、ふらここも毎年出されて29号になるのだとか。会員の方々は、みなさん勉強熱心で、宇都宮市や日光市で開かれる児童文学の講演会には、いつもおいでになっておられるし、東京の講座や季節風の大会に来られることも多く、児童文学の最新刊もたくさん読んでおられます。また季節風に入っておられる方も多く、季節風に投稿できるのは同人誌に掲載されたことがないものという条件があるため、新作はこの「ふらここ」に出すか、季節風に投稿するか、というのが、究極の選択になってしまうという、とてもすごい会です。

今回の「ふらここ」もいっぱい魅力的なお作品が。


「ナムナム」せいのあつこ せいのさんは、季節風掲載のご常連、出せば必ず掲載される文章には定評のある方です。はじめて大阪弁のお作品を拝読しましたが、標準語のとはまた違う雰囲気の作品で自由で魅力的。

「おにいちゃんだから」高橋紀子 おかあさんの手術をめぐり、おにいちゃんの身になりきって事件が進みます。その子になりきれという、高橋先生の教えをちゃんと守っておられて。

「ママに・ごめん……」川上洋子 頭の中がホタルを見に行きたいでいっぱいになっている子どもの気持。あるある。これも身になりきっておられて。

「キンカン」金瑛子 前に季節風に掲載された母子のせつないお話がとっても印象的でしたが、きっとこれはその前の事情なんだろうな。これもせつない。

「まいごとマフラー」はやみずようこ はやみずさんも、季節風掲載のご常連。こちらもはじめて六年生にチャレンジされて、新鮮。

「お酒サマ様」菊池昭三 菊池さんは、語り部さん。その語りくちはなめらかで正直でいつまでも聞いていたいように素敵なのですが、毎回何度も原稿を書いて書き直して練習されていると聞いてびっくりしました。このお作品でも「なぁに、疲れねぇ。だいじょうぶだ。お天道さまが出ていればまだまだ草取りできんのになぁ。はぁ草も見えねぐなっちまったわ」なんてセリフほんと菊池さんの声を聞いているみたいです。

「お小遣いのゆくえ」山口節子 助けた犬が死んで、さらにお金を請求される現実。わあ、と思いました。

「顔」本倉裕子 ピアノと三味線のとりあわせ、とっても新鮮。

「上京の日」小薬健一 小薬さんは、初投稿が季節風に掲載された方。思春期の男の子を描いてすてきでした。今回は浪人をした子がおとうさんと上京するお話。私も受験前に父と上京したときのひりひり感を思い出します。

「肩車」妻木ヨシイ 妻木さんはいつも戦前の宇都宮の裕福なお家の何とも言えない優雅な雰囲気を描いて、その世界には定評があります。うーん、もっともっと読みたいなあ。

「夕立ちの絵」高橋秀雄 トリが親方高橋さん。私なんかがいうまでもなくさすがでいらっしゃいます。余計者ふたりが、いやな仕事を押し付けられて、でも進んで働いている。重い鶏糞をリヤカーで運ぶ。でもいやな仕事といっても高橋さんのお作品だから、いやな一筋縄でなく、行った先のおばさんは「きれいな前掛けのまま」臭い鶏糞の袋を抱きかかえるのです。こういうこと書けるようにならなくちゃならないのですね……。

勉強させていただきました。