2011年5月2日月曜日

「地をはう風のように」高橋秀雄

書名:地をはう風のように
著者名:高橋秀雄
出版社:福音館書店
好きな場所:「たたくといってもなあ、本当にたたくやつがあるか。コウゾウみたいに床をたたけば音も出るし、迫力があるだろう」
先生がコウゾウのところに来て頭をなでて言った。
「コウゾウ、おまえ歌舞伎役者みてぇだな、いいぞその調子だ」
所在ページ:152
ひとこと:2009年に日本児童文学者協会賞をとられた高橋秀雄さんのご本です。高橋さんは季節風の編集委員であるだけでなく事務局長でいらして、機関紙の応募原稿の宛先であって発送元、関係者でお世話になっていない者はいないのですが、なんといっても一番すごいと思うのは「全国児童文学同人誌連絡会 季節風」の連絡会たるゆえんで真骨頂の同人誌評。これを書かれるために、高橋さんは毎号毎号たくさんの同人誌をすみからすみまで読んでおられるのです。
 同人誌の会員には、いろいろな方がおられるわけだから、中には書き始めの場合も、どうやって物語をつくっていいのかわからないと迷っている人の場合もあるわけで、でも高橋さんはそれを全部読み、中から、ちょっとでも大きくなりそうな芽をひろって、まさに読んでいなければ絶対にかけない、ていねいな評を書かれるのです。
 これは高橋さんの主宰される童話の会や、季節風の飲み会などの叱咤激励でも同じで、私はこの文中の先生の言葉に、まさに高橋さんの声を聞く気がしました。

 ともあれ、この本は気になる女の子、文子に「ねえ、ここ、だれか住んでんの、ここのうち、にわとりはいるけど……」と言われちゃうようなおんぼろな家に住んでいるコウゾウが、貧乏を恥ずかしいと思い、寸借詐欺まがいのおばあちゃんを恥ずかしいと思い、本宅とよぶ元の地主の家に頼る家族をいやだと思いながら、すごしている姿をまさに地をはうように描いておられますが、実はその中にある人間の尊厳というものを透かし絵のように浮かび上がらせているような気がします。
 おばあちゃんは生活保護を勧めにきた民生委員を追い出し、コウゾウはなんとかおばあちゃんの借金を返せないかと考え、自分の中にある本宅に頼る気持ちに気づく。それがただの貧乏物語ではない高橋さんの文学の芯なのだなあと思うのです。
 今、まさに災害の中でいろいろなことが伝わってきますが、「ハイビョウ」とうわさをたてられて困るコウゾウ一家や、人が何度も入った湯に入るときの気持ち、など渦中にいる子どもたちにも読んでもらいたいような、そしていつも高橋さんがおっしゃっているように「何かをつかんで」もらいたいような、そういう本です。

 余談ですが、コウゾウ君をもっと知りたいときは、「父ちゃん」「やぶ坂に吹く風」「やぶ坂からの出発」(小峰書店)がおすすめです。